発注をスタッフに任せたい。でも、仕入単価を見られるのは困る。勝手に高いものを買われるのも怖い。──だから結局、院長が診療の合間に発注書を作り続けています。
結論を先に書きます。「金額を見せる」と「金額を決めさせる」は、まったく別の話です。この2つを分けると、明日から渡せる部分が見つかります。混ぜたままだと、いつまでも渡せません。
発注を手放せない理由は、たいてい2つしかない
院長に理由を伺うと、ほとんどこの2つに落ちます。
- 単価を知られたくない。仕入値が分かると、自分の給与と比べられる。医院の外に漏れる可能性もある
- 使いすぎが怖い。気づいたら高いものが届いている、が一度あると、二度と渡せなくなる
この2つは、まったく別の問題です。1つめは情報の話。2つめは権限の話です。
ところが院内で相談すると、たいてい「金額のことがあるから発注は難しいね」と1つにまとめられます。まとめた瞬間に、答えは「じゃあ院長がやる」しかなくなります。分けて考えれば、それぞれに別の対策があります。
①情報の話:金額を見なくてもできる発注がある
発注という仕事の中身を分解すると、金額の判断が入らない部分がかなりあります。
| 発注の中身 | 金額の判断 | 渡せるか |
|---|---|---|
| 棚を見て、残りが少ないものを一覧にする | 要らない | 渡せる |
| いつもの商品を、いつもの業者に、いつもの数だけ頼む | 要らない | 渡せる |
| 届いたものを数えて、伝票と突き合わせる | 要らない | 渡せる |
| 入っていない商品を、どこから買うか選ぶ | 要る | 院長 |
| 業者と単価を交渉する | 要る | 院長 |
| 機材を買い替えるか、修理で持たせるか | 要る | 院長 |
上の3行は、商品名と数量だけで回ります。単価が見えている必要はありません。
紙とExcelでこれをやろうとすると難しくなります。発注書には単価が載っているからです。単価を消した一覧を別に作れば手作業が増える。だからつい、全部を院長が抱えることになります。
それでも、明日からできることが1つあります。「切れそうなものの一覧を作る」ところまでを切り出して渡す。商品名と、残りの数だけ。発注そのものは院長が押す。これなら単価はどこにも出てきません。
②権限の話:しきい値を先に決める
「使いすぎが怖い」への答えは、監視ではなく金額の線です。
「1回◯円までは自分の判断で頼んでいい。超えたら院長に回す」。この1行を先に決めて、口に出して伝えるだけで、任せ方は変わります。決めていないと、スタッフは全部を聞きに来るか、全部を聞かずに進めるか、どちらかに振れます。
いくらにするかは医院ごとに違うので、ここに具体的な金額は書きません(根拠のない数字を挙げても、それはただの当てずっぽうです)。代わりに、決め方だけ書きます。
| 決め方 | 考え方 |
|---|---|
| 費目ごとに変える | 毎月必ず出ていく消耗品は線を高めに。機材・什器は低めに。同じ金額でも意味が違う |
| 1回の金額だけでなく、月の合計にも線を置く | 1回の金額が小さくても、回数が増えれば同じこと |
| 「初めて買うもの」は金額に関係なく院長 | いつもの商品を切らさないための発注と、新しく買う判断は別の仕事 |
| 線は下げるより上げるほうが簡単 | 最初は低めに置き、うまく回ったら上げる。逆は角が立つ |
最後の1行が実務では効きます。いきなり広く任せて事故が起きると、二度と渡せなくなります。狭く始めて、広げるほうが、結果的に早く手が離れます。
決めたことは、記録が残らないと機能しない
しきい値を口頭で決めても、たいてい半年で崩れます。理由ははっきりしていて、「言った・言わない」が残らないからです。
院長が診療中に「あれ頼んでおいて」と言い、スタッフが頼み、別の日に院長も自分で頼む。同じものが二重に届く。誰も悪くないのに、次から「やっぱり自分でやる」に戻ります。
崩れないようにするには、1回の発注につき次の4つが残っている必要があります。
- 誰が頼んだか(依頼した人)
- 誰が通したか(承認した人。しきい値を超えた場合)
- いくらだったか(見せる相手は限ってよい。ただし記録はある)
- いつ届いたか(受け入れたかどうか)
この4つが残っていれば、二重発注は起きません。逆に言うと、二重発注が起きる医院は、この4つのどれかが残っていない医院です。
今日からできること
- 「切れそうなものの一覧を作る」だけを、1人に渡す(単価は出さない)
- 「1回◯円まで」の線を、消耗品について1つだけ決めて、口に出して伝える
- 発注したものをノート1冊に書く。頼んだ人・日付・商品名・数量の4項目でいい
- 1か月やってみて、二重発注が起きたかどうかだけ確認する
それでも残る面倒
ExcelとFAXのままだと、面倒が1つ残ります。しきい値を超えたかどうかを、院長が毎回 自分で計算することになる。
「1回3万円まで」と決めても、スタッフが単価を見られない設計にしているなら、合計がいくらになるかはスタッフには分かりません。結局、院長が電卓を叩いて「これは超えてるね」と判断する。線を引いたのに、線の判定を院長がやっている。ここが、道具を替えないと消えない部分です。
まとめ
- 「金額を見せる」と「金額を決めさせる」は別の問題。分けると渡せる部分が見える
- 切れそうなものの一覧・いつもの補充・受け入れ確認は、単価を見なくてもできる
- 使いすぎへの答えは監視ではなく、金額のしきい値。費目ごとに変え、狭く始めて広げる
- 誰が頼み/誰が通し/いくらで/いつ届いたか。この4つが残れば二重発注は起きない
- しきい値の判定を院長がやっているうちは、手は離れない
事務長AIなら、ここが変わります
権限の設定で、スタッフに金額を見せないまま発注を回せます。稟議に回す金額のしきい値は、医院ごと・費目ごとに決められるので、超えたかどうかの判定を院長がする必要がありません。発注依頼 → 稟議 → 発注書 → 受入 → 在庫までが1本につながり、誰が頼んで誰が通したかが記録として残ります。仕入先マスタ・商品マスタ・費目もあわせて管理できます。

