診療室の棚や引き出しに、赤い枠で「劇」と書かれた箱はありませんか。その箱は、ほかの薬や材料と同じ段に並んでいないでしょうか。発注と在庫をスタッフに任せているなら、置き場所の決まりを、院長のほかに誰が知っているかも気になるところです。
先に結論です。毒薬と劇薬は、業務で扱う人が、ほかの物と区別して貯蔵しなければなりません。毒薬を置く場所には、かぎが要ります(医薬品医療機器等法第48条)。あわせて、歯科の現場には、医薬品の「劇薬」とは別の法律で決まっている「劇物」もあります。この記事では、2つの見分け方と、それぞれの保管の決まり、厚生労働省のサイトに載っているマニュアルが歯科向けに挙げている管理の項目を確かめます。
毒薬・劇薬は、ラベルの色で見分ける
医薬品医療機器等法(薬機法)の第44条によると、毒薬と劇薬は、医薬品の中から、厚生労働大臣が指定するものです(指定の前に、薬事審議会の意見を聴きます)。毒性が強いものが毒薬、劇性が強いものが劇薬です。表示の形も同じ条が決めています。
| 毒薬 | 劇薬 | |
|---|---|---|
| 表示する場所 | 直接の容器又は直接の被包 | |
| 地と枠と字の色 | 黒地・白枠・白字 | 白地・赤枠・赤字 |
| 書くもの | 品名と「毒」の文字 | 品名と「劇」の文字 |
ここからは筆者の読み方です。表示を付けるのは作る側の仕事ですが、医院の側から見れば、この表示が「区別して置くもの」の目印になります。どの薬が劇薬に当たるかは、製品の容器と添付文書で確かめてください。
保管の決まり ── 薬機法第48条
薬機法第48条第1項は、業務上毒薬又は劇薬を取り扱う者に、区別を求めています。貯蔵するときも陳列するときも、ほかの物と分けなければなりません。第2項は、そのうち毒薬について上乗せをしています。毒薬を貯蔵し、又は陳列する場所には、かぎを施すこと、です。
罰則もあります。同法第86条によると、第48条第1項又は第2項に違反したときは、違反行為をした者が罰せられます。重さは、1年以下の拘禁刑若しくは100万円以下の罰金、又はその両方です。
ここからは筆者の読み方です。条文が「かぎ」を求めているのは毒薬の置き場所で、劇薬については区別までです。ただ、下で見るマニュアルは、毒薬・劇薬を含む「規制医薬品」の項目に、施錠管理を挙げています。「劇薬は法律上かぎが要らないから、ほかの薬と同じ引き出しでよい」とは読めません。区別は、劇薬にも掛かっています。
「劇物」は別の法律 ── 毒物及び劇物取締法
名前が似ていて混同しやすいのが、医薬品ではない「毒物・劇物」です。厚生労働省のサイトに載っている「医薬品の安全使用のための業務手順書」作成マニュアル(平成30年改訂版。厚生労働科学研究として作られたもの)は、第15章「歯科領域」の解説で、歯科の現場には医薬品や歯科材料のほかに毒物・劇物もあると書き、例に挙がっているのは、フッ化水素酸・亜硝酸ナトリウム・塩酸・過酸化水素水などです(順番はマニュアルのとおり)。
毒物と劇物を決めているのは、毒物及び劇物取締法です。同法第22条第5項は、営業者などでなくても、業務上取り扱う者であれば、その毒物又は劇物が厚生労働省令で定めるものである限り、第11条、第12条第1項と第3項、第17条、第18条を準用するとしています。その省令が定める毒物・劇物は、同法施行規則第18条の2によると、すべての毒物及び劇物です。
準用される条のうち、置き場所に関わるのは次のものです。
- 第11条第1項:毒物や劇物が盗難にあったり、紛失したりしないように、必要な措置を講じる
- 第11条第4項:毒物と、厚生労働省令で定める劇物は、飲食物の容器として通常使われる物を容器にしてはならない
- 第12条第1項:容器と被包に「医薬用外」の文字を表示する。あわせて、毒物は赤地に白色で「毒物」、劇物は白地に赤色で「劇物」と表示する
- 第12条第3項:貯蔵・陳列する場所にも、「医薬用外」の文字と、「毒物」又は「劇物」の文字を表示する
- 第17条第2項:盗まれたり、なくしたりしたときは、直ちに警察署に届け出る
ここからは筆者の読み方です。医薬品の劇薬は「劇」、毒劇法の劇物は「医薬用外」と「劇物」。表示の字が違うので、棚の前で見分けられます。劇物のほうは、置き場所そのものにも表示が要る点が、医薬品の劇薬と違います。
マニュアルが歯科向けに挙げる管理の項目
上のマニュアルの冒頭によると、平成19年4月から、病院や歯科診療所などの管理者は、医薬品を安全に使うための業務手順書を作らなければならなくなりました。マニュアルは、その手順書を作るときの参考として示されたものです。第15章「歯科領域」は、手順書に定めることが望ましい事項の1つ目に「医薬品等の管理」を置いています。具体的な項目の例から、保管と在庫に関わるものを拾うと、次のとおりです。
- 規制医薬品について(マニュアルは、麻薬、覚せい剤原料、向精神薬の第1種・第2種、毒薬・劇薬をこう呼んでいます):関係法規を守る/在庫の数と種類を適切に決める/在庫の数を定期的に確かめる/ほかの医薬品と分けて保管し、施錠して管理する/盗難や紛失を防ぐ
- 品質の管理:有効期間・使用期限を定期的に確かめる/期限の短いものから使う工夫(先入れ先出しなど)/医薬品・薬物・歯科材料ごとに、温度・湿度・遮光などの保管条件を確かめる
- 処置薬(消毒薬等を含む):調製(希釈)した薬に調製日を表示する/開封日、開封後や調製後の期限を書いておく
- 名前や見た目が似た医薬品・薬物・歯科材料の取り間違いを防ぐ工夫
ここからは筆者の読み方です。マニュアルの項目は例であって、法律の条文ではありません。ただ、「区別して置く」「かぎを掛ける」を毎日守るには、在庫の数と期限を誰がいつ見るかまで決めておかないと続きません。発注を任せているスタッフがいるなら、その人の仕事に入れてしまうのが早いと思います。発注の仕組みの整え方は歯科材料の発注、Excelとファックスをやめるにはに書きました。
今日からできること
- 棚と引き出しを1周して、表示を探す。「毒」「劇」の表示がある医薬品と、「医薬用外」の表示がある毒物・劇物を書き出します。
- 置き場所を分ける。劇薬は、ほかの物と区別した場所に。毒薬があれば、かぎの掛かる場所に。毒物・劇物は、置き場所にも「医薬用外」と「毒物」「劇物」を表示します。
- ペットボトルやコップに移し替えていないかを見る。毒物と、省令で定める劇物は、飲食物の容器として通常使われる物に入れてはいけません。
- 在庫と期限を見る日を決める。担当と頻度を決め、見たことを記録に残します。担当が辞めたときに途切れないよう、手順を紙か画面に残します(辞めたスタッフの仕事が引き継がれない医院の共通点)。
それでも残る面倒
新しい薬や材料を採用するたびに、容器の表示を確かめて置き場所を決める手間が残ります。また、マニュアルの項目にある麻薬と向精神薬は、別の法律(麻薬及び向精神薬取締法)で決まりがあります。この記事では扱っていません。使っている医院は、その法律と保健所の案内で確かめてください。
まとめ
- 毒薬は黒地・白枠・白字で「毒」、劇薬は白地・赤枠・赤字で「劇」(薬機法第44条)
- 業務上毒薬又は劇薬を取り扱う者は、ほかの物と区別して貯蔵・陳列する。毒薬の置き場所には、かぎを施す(同法第48条)。違反には第86条の罰則がある
- フッ化水素酸などの毒物・劇物は、毒物及び劇物取締法の対象。業務上取り扱う者にも、盗難・紛失の防止、「医薬用外」の表示などが準用される(同法第22条第5項・施行規則第18条の2)
- 厚生労働省のサイトに載っているマニュアルは、歯科の手順書の例として、区別した保管と施錠管理、在庫数と使用期限の定期的な確認を挙げている
当たった法律とマニュアル
- e-Gov法令検索 医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律
- e-Gov法令検索 毒物及び劇物取締法
- e-Gov法令検索 毒物及び劇物取締法施行規則
- 厚生労働省「医薬品の安全使用のための業務手順書」作成マニュアル(平成30年改訂版)
事務長AIなら、ここが変わります
事務長AIの「品目マスタ」に薬や材料を登録し、「在庫」で数を見られます。劇薬・毒薬の区別や、使用期限・ロットを記録する専用の欄はありません。置き場所のルールや点検の手順は「マニュアル」に残せるので、担当が替わっても同じやり方を続けられます。

