歯科の窓口負担、値引きとポイント付与の線引き

歯科の窓口負担、値引きとポイント付与の線引き

「スタッフの家族だから、窓口の負担はいいよ」。「キャッシュレスにしたら、ポイントも付けられるのでは」。「定期検診に来た人には、歯ブラシを割り引こうか」。どれも患者さんへの気づかいから出てくる話ですが、保険診療の窓口負担には、療養担当規則の決まりがあります。

先に結論です。保険医療機関は、窓口負担(一部負担金)の支払を受けるものとされています(療養担当規則第5条)。そして、受け取る額に応じた物品の値引きなど、健康保険事業の健全な運営を損なうおそれがある経済上の利益を提供して患者を誘引することは、禁じられています(第2条の4の2)。ポイントについては、クレジットカードや汎用性のある電子マネーの支払いで生じるポイントは、当面やむを得ないものとして認められている、というのが厚生労働省の示している扱いです。この記事では、この3つの線を条文と通知で確かめます。

目次

窓口負担は「受けるもの」 ── 療養担当規則第5条

保険医療機関及び保険医療養担当規則(療養担当規則)の第5条第1項によると、保険医療機関は、被保険者などについては健康保険法第74条の規定による一部負担金の、被扶養者については費用の額から家族療養費に相当する額を引いた額の、支払を受けるものとされています。

同じ規則の第2条の4は、努力の義務です。保険医療機関は、自分が担当する療養の給付について、健康保険事業の健全な運営を損なわないよう努めなければなりません。

ここからは筆者の読み方です。条文は「受けるもの」と書いていて、医院の判断で窓口負担をまけたり、なしにしたりする余地は書かれていません。スタッフやその家族、知人だからという理由で窓口負担を受け取らない運用は、この条文から外れます。窓口負担の減額や免除が認められる場面があるかどうかは、この記事では扱いません。

値引きで患者を呼ぶことの禁止 ── 第2条の4の2

療養担当規則の第2条の4の2は、見出しが「経済上の利益の提供による誘引の禁止」です。2つの項があります。

  • 第1項(患者に対して):第5条で受け取る費用の額に応じて、医院の収益業務の物品を値引きする。条文はこれを例に挙げ、「その他の」で、経済上の利益のうち健康保険事業の健全な運営を損なうおそれのあるものの提供につないでいます。そうした利益を提供して、患者を自院の診療に誘引してはならない
  • 第2項(事業者やその従業員に対して):患者を紹介してもらった対価に金品を渡す。条文はこれを例に挙げ、第1項と同じく、「その他の」でつないだ先は、健康保険事業の健全な運営を損なうおそれがある経済上の利益の提供です。それによって患者を自院の診療に誘引してはならない

ここからは筆者の読み方です。第1項の「その他の」は例示なので、禁じられているのは物品の値引きに限りません。値引きは、禁じられている経済上の利益の1つの例です。歯科医院で当てはめると、「窓口負担が◯円以上の人は、歯ブラシや歯磨剤が◯割引き」のように、保険の窓口負担の額に連動した物販の割引が、第1項の例にそのまま重なります。第2項は、紹介料の話です。患者を紹介してくれた会社や、その従業員にお礼の金品を出す形は、条文が例に挙げているものです。

ポイントはどこまでか ── 平成24年の通知と令和5年の事務連絡

ポイントの扱いは、条文ではなく通知で示されています。平成24年の厚生労働省保険局医療課長通知(保医発0914第1号)は、療養担当規則の改正(平成24年10月1日から適用)の趣旨として、次のことを示しました。

  • 一部負担金などを受け取るのに応じて、ポイントを付けたり還元したりすることを専らの目的とするポイントカードは、ポイントの付与を認めないのが原則
  • ただし例外がある。クレジットカード(現金と同じ支払い機能を持つもの)や、電子マネー(一定の汎用性のあるもの)で払ったときに生じるポイントは、当面、やむを得ないものとして認める。こうしたカードは、患者さんが払いやすくすることが目的だから、という理由

その後、令和5年9月29日の厚生労働省保険局医療課の事務連絡が、医療機関の窓口負担のキャッシュレス支払いについて整理しています。窓口負担をクレジットカードで受け取っても、電子マネー(交通系のタッチ式や、QRコード・バーコードで払うもの)で受け取っても、差し支えないとしています。そのうえで、留意点が2つあります。

  • キャッシュレス支払いに伴うポイントは、平成24年の通知に示したとおり、「当面やむを得ない」として認めているにすぎない
  • 次の①〜③のいずれかに当たる医療機関等には、口頭による指導を行い、改善が認められなければ、必要に応じて個別指導を行う
    • ① ポイントを使って窓口負担を減らせるようにしている
    • ② 窓口負担の1%を超えてポイントを付けている
    • ③ 窓口負担へのポイント付与を、大々的に宣伝・広告している(建物の外の看板、テレビコマーシャル等)

ここからは筆者の読み方です。医院が自分で出すポイントカードで窓口負担にポイントを付けるのは、平成24年の通知の「原則認めない」に当たります。カード会社や決済会社のポイントは、患者さんの側に付くもので、医院が上乗せしない限りは「当面やむを得ない」の範囲です。医院の看板やホームページで「キャッシュレスならポイントがたまる」と大きく打ち出すと、③に近づきます。広告の点検のしかたは歯科医院の医療広告ガイドライン、点検する8か所にまとめました。

今日からできること

  1. 窓口負担を受け取っていない人がいないかを見る。スタッフ本人や家族、知人の受診で、会計を「なし」にしていないか。受付の担当に、そういう指示が残っていないかを確かめます。
  2. 物販の割引の条件を見る。割引やおまけが、保険の窓口負担の額に連動していないかを確かめます。
  3. ポイントの仕組みを見る。医院独自のポイントカードやスタンプがあれば、何に対して付けているかを確かめます。決済会社のポイントに医院が上乗せしていないかも見ます。
  4. 看板・ホームページ・院内の掲示を見る。窓口負担へのポイントを大きく宣伝していないかを確かめます。
  5. 紹介のお礼を見る。患者を紹介してくれた会社や、その従業員に金品を出していないかを確かめます。

それでも残る面倒

ここからは筆者の読み方です。受付のルールを決めたら、誰がいつ決めたかを院内の記録に残しておくと、担当者が替わっても同じ運用を続けられます。領収証の控えや帳簿を何年置くかは歯科医院のカルテ保存期間は5年 ── 帳簿は何年かに書きました。また、窓口負担を払ってもらえない未収金をどう扱うかは、この記事では扱っていません。

まとめ

  • 保険医療機関は、一部負担金などの支払を受けるものとされている(療養担当規則第5条第1項)
  • 受け取る費用の額に応じた物品の値引きのように、健康保険事業の健全な運営を損なうおそれがある経済上の利益を提供して、患者を誘引してはならない。紹介の対価として事業者などに金品を出すことも同じ(第2条の4の2)
  • 一部負担金などの受領に応じて、ポイントを付けて還元することを専らの目的とするポイントカードは、ポイントの付与を原則認めない。クレジットカードや汎用性のある電子マネーで払ったときのポイントは、当面はやむを得ないとして認める(平成24年 保医発0914第1号)
  • ポイントで窓口負担を減らせる/窓口負担の1%を超えて付ける/大々的に宣伝する、のいずれかに当たると、口頭による指導、改善がなければ必要に応じて個別指導(令和5年9月29日 事務連絡)

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この記事を書いた人

近藤 宏海
近藤 宏海 株式会社ガラパゴスワークス 代表取締役

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私は歯科医院の事務の現場で、医院の開業から日々の運営まで、発注・納品・人の手続き・お金の管理を担ってきました。いまは歯科医院の開業コンサル・経営コンサルとして、ほかの医院の立ち上げや立て直しにも関わっています。

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記事では、現場で実際にぶつかった困りごとを、公的な資料で裏付けながら、明日から使える形でお伝えします。

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