歯科医院の健康診断 ── 年1回と、パートはどこから

歯科医院のスタッフの健康診断 ── 雇い入れ時と年1回、パートが対象になる線と6か月ごとの健診

新しく衛生士を雇った。週に数日だけ来るパートさんにも健康診断は要るのか。去年いつ受けてもらったか、誰も覚えていない。こういう状態、ありませんか。先に結論を書きます。医院は、常時使用するスタッフに、雇い入れるときと、その後1年以内ごとに1回、医師による健康診断を受けさせる義務があります(労働安全衛生規則 第43条・第44条)。パートやアルバイトも、契約の長さと週の労働時間の2つの条件を両方満たせば対象です。結果は個人票にして5年間保存します。

同じ労働安全衛生法の仕組みでも、ストレスチェックは別の制度で、歯科医院のストレスチェックは令和10年4月から義務で扱いました。この記事は、医師による健康診断のほうを扱います。

目次

雇い入れるときと、年に1回 ── 2つの健康診断

医師による健康診断を行うよう事業者に求めているのは、労働安全衛生法の第66条第1項です。いつ、何を行うかは労働安全衛生規則が決めています。歯科医院にまず関係するのは次の2つです。

  • 雇入時の健康診断(第43条):常時使用する人を雇い入れるときに行います。ただし、医師の健康診断を受けてから三月を経過していない人を雇い、その人が結果を証明する書面を出したときは、その健診に相当する項目は行わなくてかまいません。
  • 定期健康診断(第44条):常時使用する人に、1年以内ごとに1回、定期に行います。

検査の項目は、雇入時も定期もそれぞれ11項目で、厚生労働省のリーフレットに一覧があります(厚生労働省の健康診断リーフレット)。大きく分けると、問診(これまでの病気や仕事の経歴、症状)、体の計測(身長・体重・腹囲・視力・聴力)、胸のレントゲン、血圧、血液の検査(貧血・肝臓・脂質・血糖)、尿、心電図です。ひとつ違うのは痰の検査で、これは定期健康診断の項目にだけ入っています(労働安全衛生規則 第44条)。

定期健康診断では、身長や心電図などの一部の項目を省略できる場合があります。ただし第44条第2項は、省略を2つの条件で縛っています。国(厚生労働大臣)の決めた基準に当てはまること、そのうえで医師が要らないと判断することです。リーフレットは項目ごとに省略できる人を示していて、たとえば貧血・肝機能・血中脂質・血糖・心電図の検査は「40歳未満の者(35歳の者を除く。)」です。この第2項の基準に当てはまらない人は、第2項による省略の対象になりません。

しかも基準に当てはまる人でも、省略するかは医師の判断です。同じリーフレットは、この判断は症状や既往歴などを見て医師が総合的に行うもので、年齢などで機械的に決まるものではない、と注意しています。「40歳未満だから血液検査は無し」と、医院の側で決めてしまわないことです。

受ける側の決まりもあります。労働安全衛生法第66条第5項は、スタッフは医院が行う健康診断を受けなければならないとしています。そのうえで、医院が指定した医師での受診を望まない人が、別の医師で相当する健康診断を受け、結果を証明する書面を出した場合は、それでよいとしています。

パートやアルバイトは、どこから対象になるか

「常時使用する」に入る短時間のスタッフについて、大阪労働局のパンフレットは、平成26年の通達などをもとに、2つの条件を両方満たす人を挙げています(大阪労働局「健康診断等を実施しましょう」)。

  1. 雇う期間:無期雇用であること。有期の契約でも、1年以上の契約の人、更新して1年以上になる見込みの人、すでに更新を重ねて1年以上になった人は、ここに入ります。
  2. 週の時間:その人の週の労働時間が、院内で同じ仕事をするフルタイムの人の週の所定時間と比べて、4分の3以上あること。

同じパンフレットには続きがあります。週の時間が4分の3に届かなくても、雇う期間の条件を満たし、フルタイムの人のおおむね2分の1以上働いているなら、健康診断を行うことが望ましいとされている、という説明です。義務の線の下に「望ましい」の線がもう1本ある、と覚えておくと整理しやすくなります。

6か月ごとの健康診断が必要になる場合

年1回ではなく、6か月以内ごとに1回になる人もいます。どちらも「その業務に常時従事している人」が対象で、医院のすべてのスタッフではありません。

1つめは、特定業務従事者の健康診断(労働安全衛生規則 第45条)です。その業務に配置替えするときと、6か月以内ごとに1回行います。ただし胸のレントゲンと痰の検査は、1年以内ごとに1回で足りるとされています。また、前回に血液検査(貧血・肝機能・血中脂質・血糖)や心電図を受けた人は、定期の回で医師が必要でないと認めれば、その項目を省略できます(同条第2項)。対象の業務は同規則第13条第1項第3号に並んでおり、厚生労働省のリーフレットの一覧には、深夜業を含む業務のほか、エックス線などの有害な放射線にさらされる業務も入っています。このうち深夜業を含む業務について、大阪労働局のパンフレットは、22時から翌5時の時間帯の仕事を、ふだんの勤務として週1回以上か月4回以上している業務だとしています。

2つめは、電離放射線健康診断(電離放射線障害防止規則 第56条)です。対象は、放射線業務に常時就いていて、管理区域に出入りする人です。雇い入れのときや、その業務に配置替えしたときに行い、以後は6か月以内ごとに1回です。埼玉労働局の案内は、この放射線業務の例にエックス線装置を使う業務を挙げています(埼玉労働局「電離放射線健康診断は年2回行ってください」)。項目は、被ばく歴の調査と評価、白血球数と白血球百分率、赤血球数と血色素量またはヘマトクリット値、白内障に関する眼の検査、皮膚の検査の5つです。

定期に行う電離放射線健康診断は、医師が必要でないと認めれば、被ばく歴以外の項目の全部か一部を省けます。また、前の年1年間に受けた実効線量が5ミリシーベルトを超えず、その年も超えるおそれがない人は、医師が必要と認めなければ、被ばく歴以外の項目は行わなくてよいとされています。定期に行ったあとは、結果報告書(様式第2号)を所轄の労働基準監督署長に出します(同規則 第58条)。

管理区域は、医院が自由に決めるものではありません。電離放射線障害防止規則第3条は、一定の線量を超えるおそれのある区域などを管理区域とし、事業者はその区域を標識で示さなければならないとしています。必要のある人以外を立ち入らせてはならない、とも定めています。そのうえで、エックス線装置を使う業務などに常時就いて、その区域に立ち入る人が、電離放射線健康診断の対象になります。標識を出していないから対象者はいない、とは読めません。自院のスタッフが当てはまるかは、所轄の労働基準監督署に確かめてください。

受けてもらったあとに、医院がやること

健康診断は、受けてもらって終わりではありません。労働安全衛生法は、そのあとの手順も決めています。

  • 記録する(第66条の3):雇入時や定期の健診の結果は、労働安全衛生規則第51条で、健康診断個人票という様式にまとめて5年間とっておきます。電離放射線健康診断の個人票は、電離放射線障害防止規則第57条により30年間の保存です(5年間保存したあと、厚生労働大臣が指定する機関に引き渡す場合を除く)。
  • 医師の意見を聴く(第66条の4):異常の所見が出た人がいたら、その人の健康を守るのに何が必要か、医師の意見を聞きます。
  • 必要なら手を打つ(第66条の5):医師の意見を聞いたうえで必要と判断したら、その人の事情を考えて、働く場所を変える、担当する作業を替える、勤務時間を短くする、といった措置をとります。
  • 本人に知らせる(第66条の6):健診を受けた本人に、結果を伝えます。
  • 保健指導に努める(第66条の7):健康に特に気をつけてもらう必要がある人には、医院が、医師か保健師による保健指導を行うよう努めます(努力義務)。

定期健康診断の結果を労働基準監督署長に報告する義務は、労働安全衛生規則第52条で、常時50人以上を使用する事業者にかかっています。報告が要らない規模の医院でも、健康診断そのものは行う必要があります。報告の義務と実施の義務は別の話です。前の節の電離放射線健康診断の報告は、この50人の線とは別に決められています。

それでも残る面倒

決まりが分かっても、実際に手間がかかるのは次のところです。

  • パートさんの契約が更新されて1年を超えた、週の時間が増えた、というたびに、対象に入ったかを見直すこと
  • 雇い入れのたびに、健診を受けてもらうか、少し前に受けた健診の結果の書面を出してもらうかを決めること
  • 一人ひとりの「前回いつ受けたか」を追い、1年以内(人によっては6か月以内)に次を入れること
  • 異常の所見があった人の、医師の意見と、その後にとった措置を残しておくこと
  • 5年分(電離放射線健康診断は30年分)の個人票を、すぐ出せる形で置いておくこと

判断に迷うところ、特に短時間スタッフの線とエックス線業務の扱いは、所轄の労働基準監督署に聞くのが早道です。

まとめ

常時使用するスタッフには、雇い入れのときと1年以内ごとに1回の健康診断が要ります。パートやアルバイトは、雇う期間の条件と、週の労働時間がフルタイムの人の4分の3以上かどうかで決まります。雇う期間の条件を満たしていれば、4分の3に届かなくても、おおむね2分の1以上なら実施が望ましいとされています。深夜業やエックス線にさらされる業務に常時就く人、管理区域に立ち入って放射線業務に常時就く人は、6か月以内ごとの健康診断の対象になりえます。結果は個人票にして5年間(電離放射線健康診断は30年間)保存し、異常の所見があれば医師の意見を聴きます。

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この記事を書いた人

近藤 宏海
近藤 宏海 株式会社ガラパゴスワークス 代表取締役

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私は歯科医院の事務の現場で、医院の開業から日々の運営まで、発注・納品・人の手続き・お金の管理を担ってきました。いまは歯科医院の開業コンサル・経営コンサルとして、ほかの医院の立ち上げや立て直しにも関わっています。

現場で「これがあれば」と感じたものを、自分の手で形にしたのが「事務長AI」です。いまも導入先の医院で使っていただきながら、改良を続けています。

記事では、現場で実際にぶつかった困りごとを、公的な資料で裏付けながら、明日から使える形でお伝えします。

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