冬の賞与を振り込んで、ひと息ついたところで思い出す。年金事務所に何か出すのだった、と。賞与を払った医院には、払った日から数えて期限のある届出があります。
先に結論です。社会保険(健康保険・厚生年金保険)に入っているスタッフに賞与を払ったら、支給日から5日以内に「被保険者賞与支払届」を出します。この届で「標準賞与額」が決まり、賞与にかかる保険料と、スタッフが将来受け取る年金の計算に使われます。この記事では、対象になる賞与、期限と出し先、保険料の決まり方、払わなかった月の扱いを、日本年金機構のページと条文で確かめます。
毎年7月の算定基礎届と、10月から保険料が変わる仕組み(定時決定)は、歯科医院の社会保険料、定時決定で10月の手取りが変わるで扱いました。こちらは、その「月の報酬」とは別に扱われる賞与の話です。
どの賞与が対象になるか
日本年金機構の「従業員に賞与を支給したときの手続き」によると、賞与支払届で届け出るのは、支給が年に3回以下のものです。働いたことへの対価として受け取るものなら、呼び名が賞与でも手当でも変わりません。
- 年に4回以上払うものは賞与として届けず、毎月の保険料のもとになる標準報酬月額の側で扱います
- 結婚祝金のように、働いた対価と見なされないものは入りません
- ページの例:7月と12月に払う手当を給与規程で決めているなら、回数が年2回とはっきりしているので、毎月の報酬ではなく賞与として扱います
名前が「手当」でも、年2回と決めて払っていれば賞与支払届の対象になる、ということです。給与規程や雇用契約書で、何をいつ払うと決めているかを、一度見ておくと迷いません。
期限は支給日から5日以内。出し先と出し方
日本年金機構のページによると、被保険者に賞与を払った事業主は、払った額などを「被保険者賞与支払届」で届け出ます。期限は支給日から5日以内です。70歳以上で働いているスタッフ(70歳以上被用者)に払った場合も届け出ます。様式は「被保険者賞与支払届/70歳以上被用者賞与支払届」として1つにまとまっています。
| 項目 | 日本年金機構のページの記載 |
|---|---|
| いつまで | 支払った日から5日以内 |
| どこへ | 管轄の年金事務所か、事務センター |
| どうやって | 電子申請/CD・DVD/郵送/窓口 |
| 添付するもの | 原則なし。標準賞与額の年度の累計が573万円を超えるときは、スタッフ本人から申し出があれば「健康保険 標準賞与額累計申出書」を出す(条件は表の下) |
ページの留意事項(8)〜(11)を合わせて読むと、申出書が出番になるのは、年度の途中で転職などがあり、協会けんぽに入っていた期間が2つ以上ある人です。それぞれの期間に決まった額を足して573万円を超えたら、本人の申し出を受けて出します。年度の途中で資格の取得・喪失がなく、被保険者の期間がひと続きの人なら、573万円を超えても申出書は出しません。年金機構の側で、その月の標準賞与額を573万円に収まるよう決め、次の月からの賞与は「0」とします。なお、この申出書は電子申請やCD・DVDでは出せません。
用紙は、医院ごとに登録された「賞与支払予定月」の前の月に、年金機構から届きます。スタッフの名前や生年月日は印字ずみです。予定月を登録するのは、新規適用届や事業所関係変更(訂正)届などを出したとき、とページにあります。
印字のもとになるのは、予定月の前々月、その19日までの情報です。それより後に入ったスタッフは載っていないことがあるので、空いた欄に手書きなどで書き足します。逆に、載っているのに賞与を払わなかった人の欄には斜線を引きます。
健康保険組合に入っている医院は、届出の細かいところを加入している組合に確かめるよう、ページは書いています。
賞与の保険料はどう決まるか
日本年金機構のページによると、賞与の保険料は次の順で決まります。
- 税金を引く前の、実際の支給総額を出す。そこから1,000円未満を切り捨てた額が「標準賞与額」
- 標準賞与額に、健康保険・厚生年金保険それぞれの保険料率をかける
- 出た保険料は、医院とスタッフで半分ずつ持つ
2でかける健康保険の率は、健康保険法第156条に書かれています。標準賞与額にかけるのは、一般保険料率と子ども・子育て支援金率とを合算した率です。介護保険の第2号被保険者(介護保険法第9条第2号。40歳以上65歳未満の医療保険加入者)にあたるスタッフは、これに介護保険料率をかけた額が加わります。
健康保険のこれらの率は、法律に1つの値が書かれているわけではありません。協会けんぽの一般保険料率は都道府県の支部ごとに協会が決め(同法第160条)、介護保険料率と子ども・子育て支援金率も保険者が定めます(同法第160条・第160条の2)。子ども・子育て支援金率は年度ごとに決まります。医院が入っている協会けんぽの支部か健康保険組合で値が違うので、この記事では数字を書きません。加入先の保険料額表で確かめてください。
厚生年金保険の率は、厚生年金保険法第81条第4項に書かれていて、平成29年9月以後の月分は千分の百八十三です。
標準賞与額には上限があり、健康保険と厚生年金保険で決め方が違います。
健康保険法第45条によると、その月の賞与で、年度の標準賞与額の累計額が573万円を超えることになるなら、累計額が573万円になるように、その月の標準賞与額を決めます。年度とは、4月1日から翌年3月31日までのことです。その年度のうち、その月の翌月以降に受ける賞与は、標準賞与額が零になります。なお573万円は、標準報酬月額の等級区分が改定されたときは、政令で定める額に置き換わります。
厚生年金保険法第24条の4によると、賞与を受けた月の標準賞与額は、千円未満の端数を切り捨てて決めます。その額が150万円を超えるときは、150万円とします。この150万円も、標準報酬月額の等級区分が改定されたときは、政令で定める額に置き換わります。
日本年金機構のページは、厚生年金保険の150万円を「1カ月あたり」の上限とし、同じ月に2回以上払うときは合算した額で上限を当てる、としています。同じ月に2回以上払う場合の届出も、その月の最後の賞与を払ったあとに、合算して出すよう書いています。
納めるのは翌月の納入告知書で
ページによると、賞与の保険料は単独では来ません。賞与を払った月の翌月に届く納入告知書(口座振替なら納入告知額通知書)に、毎月の保険料と合わせて載ります。納付はその月の末日まで、口座振替なら末日に引き落としです。スタッフの負担分は、賞与を払うときに差し引いておけます。
払わなかった月にも、出すものがある
ページの留意事項によると、予定月に賞与を払わなかったときは、賞与支払届ではなく「賞与不支給報告書」を出します。予定月の次の月が終わっても何も届いていない事業主には、その次の月に催告状が送られる、とあります。
ここからは筆者の読み方です。「今年の冬は賞与を出さない」と決めた年ほど、届出のことを忘れやすくなります。払わないと決めた日に、不支給報告書の準備も一緒に済ませておくと、催告状が来てから慌てずに済みます。予定月そのものを変えたいときは、年金事務所に聞いてください。
資格を取った月・失った月・育休中の賞与
日本年金機構のページは、次のような場合の扱いも書いています。スタッフの入れ替わりがある時期に賞与が重なったら、ここを見ます。
先に言葉をそろえます。辞めた日と、資格を失う日は同じではありません。健康保険法第36条と厚生年金保険法第14条によると、事業所に使用されなくなったときは、その日の翌日に被保険者の資格を失います。つまり資格の喪失日は退職日の翌日で、「資格喪失月」は退職日の翌日が属する月です。
- 資格取得月:資格の取得日以降に払った賞与には、保険料がかかる
- 資格喪失月:資格喪失月に払った賞与には、保険料はかからない。ただし資格取得と同じ月に資格喪失があったなら、取得日から喪失日の前日までに払った分にはかかる
- 資格喪失月でも健康保険では、喪失日の前日までに払った賞与の標準賞与額を決め、年度の累計(573万円)に足す。書き忘れに注意、とある
- 育休など保険料が免除される期間に払った賞与も、標準賞与額は決まり、年度の累計に足される
例:12月31日に退職するスタッフに、12月10日に賞与を払った場合。喪失日は翌年1月1日なので、資格喪失月は1月です。12月は資格喪失月ではないので、12月の賞与には保険料がかかります。「辞めた月の賞与だから保険料はかからない」と思い込むと、月末に辞める人の保険料の控除を落とします。
育休そのものの手続きは歯科医院の育休、断れない ── 医院側の手続きと期限にまとめています。
決まった標準賞与額は、スタッフ本人へ知らせる
届け出たあと、年金機構から標準賞与額決定通知書などが届きます。その中身、つまり決まった標準賞与額は、必ずスタッフ本人に知らせるよう、ページに書かれています。不支給の場合は、この通知書は来ません。
そもそも社会保険に入っている医院か
ここまでの話は、健康保険・厚生年金保険の適用事業所で、そのスタッフが被保険者であることが前提です。健康保険法第3条第3項が、どの事業所が適用事業所になるかを定めています。個人立の歯科医院がいつ社会保険の加入義務を負うかは、歯科医院の社会保険、加入義務は個人立の常時5人からで、条文と一緒に確かめました。
それでも残る面倒
ここからは筆者の考えです。賞与支払届は年に1〜2回しか出さないので、手順を覚えておけません。用紙が届く時期、支給日から数える期限、払わなかったときの報告書。毎回、去年のやり方を思い出すところから始まります。去年どの賞与をいくら払い、いつ何を出したかを、1か所に残しておくのがいちばんの近道です。
まとめ
根拠は、日本年金機構のページと、健康保険法・厚生年金保険法の条文です。
- 社会保険の被保険者に賞与を払ったら、支給日から5日以内に「被保険者賞与支払届」を出す(日本年金機構)
- 対象は、名前を問わず労働の対償として受けるもののうち、年3回以下のもの。年4回以上なら標準報酬月額の側に入る
- 標準賞与額は、税引き前の総支給額から1,000円未満を切り捨てた額。上限は健康保険が年度の累計573万円(健康保険法第45条)、厚生年金保険が150万円(厚生年金保険法第24条の4)
- 保険料は医院とスタッフで半分ずつ。翌月の納入告知書で、月末までに納める
- 予定月に払わなかったら「賞与不支給報告書」。予定月の翌月までに届出が無いと、翌々月に催告状が来る
当たった条文と日本年金機構のページ
事務長AIなら、ここが変わります
事務長AIの「昇給・賞与」で、スタッフごとに賞与の支給日と金額を、決めた根拠と一緒に残せます。去年いつ、いくら払ったかを、次の賞与のときに同じ画面で見返せます。届出の日は「期限」(開いた先の見出しは「これから来るもの」)に登録しておけます。賞与支払届を作ったり、年金機構へ出したりする機能はありません。

