歯科医院の解雇予告は30日前、退職証明書は請求で発行

歯科医院でスタッフが辞めるとき ── 解雇の30日前予告と、請求されたら出す2つの書類

スタッフに辞めてもらうことを決めた。あるいは、辞めたスタッフから電話がかかってきて「証明書を出してほしい」と言われた。どちらも、条文が期限と中身を決めている場面です。

この記事では、労働基準法と労働契約法の条文をもとに、①解雇の予告の期限と、予告が要らない場合 ②請求されたら出す2種類の書類(うち1つは、まだ辞める前に請求できます) ③7日以内に返すもの ④守らなかったときの罰則 を整理します。

先に、いちばん大きい前提を1つ。予告さえすれば自由に辞めさせられる、という話ではありません。労働契約法の第16条が置いているのは、2つの条件です。客観的にみて合理的といえる理由を欠いていること。そして、社会通念の上で相当とは認められないこと。この両方に当たる場合に、権利を濫用したものとして無効になる ── という定め方です。この記事が扱うのは、その手前にある手続きの部分です。

目次

解雇するなら、少なくとも30日前に予告する

労働基準法の第20条第1項は、こう組み立てられています。

  • 解雇しようとするときは、少なくとも30日前に予告を済ませておく
  • その30日前の予告をしないのであれば、平均賃金の30日分以上を支払う

第2項に、この2つをつなぐ規定があります。予告の日数は、1日について平均賃金を支払った場合には、その日数を短縮することができる、というものです。全部 予告にするか、全部 手当にするか、の二択ではありません。

第1項には但書が付いていて、次の2つの場合は、この限りでないとされています。

  1. 天災事変その他、やむを得ない事由によって事業を続けることが不可能になった場合
  2. 労働者の責に帰すべき事由にもとづいて解雇するとき

ここで止めずに、第3項まで読みます。前条第2項の規定を、第1項但書の場合に準用する、とあります。前条とは解雇制限の第19条で、その第2項は、前項但書の後段 ── 第19条第1項但書のうち、天災事変その他やむを得ない事由のほう ── について行政官庁の認定を求めるものです。その事由について認定を受けなければならない、と書かれています。第20条第3項が準用しているので、この認定が第1項但書の場合に読み替えられることになります。つまり但書は、医院の側で「これはやむを得ない」「本人の責任だ」と判断すれば使えるものではなく、認定という手続きが前に置かれています。

予告が要らない4つの場合と、その線を越えたとき

労働基準法の第21条は、第20条を適用しない労働者を4つ挙げています。

  1. 日日 雇い入れられる者
  2. 2箇月以内の期間を定めて使用される者
  3. 季節的業務に4箇月以内の期間を定めて使用される者
  4. 試の使用期間中の者

この条にも但書が付いています。次に当たったときは、この限りでない ── つまり第20条が適用されるようになります。

  • 1号の人を、1箇月を超えて続けて使うことになったとき
  • 2号または3号の人を、定めた期間を超えて続けて使うことになったとき
  • 4号の人を、14日を超えて続けて使うことになったとき

まず4号を見てください。試用期間中でも、14日を超えて働いてもらった時点から、予告の話が戻ってきます。試用期間そのものを何か月に設定していても、この14日は動きません。

請求されたら出す書類は、2種類ある

第22条は、証明書の条文です。2種類あり、請求できる時期が違います。

1つ目(第1項)は、退職の場合に請求できるものです。条文が挙げている項目は5つ。並んでいる順に、使用期間、業務の種類、その事業における地位、そして賃金又は退職の事由です。このうち退職の事由には括弧書きが付いていて、その事由が解雇であるときは、解雇の理由も含むとされています。請求があったら、使用者は遅滞なく交付しなければなりません。

2つ目(第2項)が請求できるのは、退職の日までのあいだ。始まりは、第20条第1項による解雇の予告がされた日です。中身は当該解雇の理由です。まだ辞めていない段階で出すことになります。こちらも、請求があれば遅滞なく交付しなければなりません。こちらにも但書が付いています。予告がされた日以後に、本人がその解雇とは別の事由で退職したとき。その場合は、退職の日以後は交付を要しないとされています。

書き方の側にも決まりがあります。

  • 第3項 請求されていない事項は、2種類のどちらの証明書にも書き入れてはいけない
  • 第4項 禁じられているのは2つの行為で、どちらにも同じ2つの要件が掛かります。第三者とあらかじめ示し合わせていること。そして、その労働者の就業を妨げる目的があること。この条件のもとで禁じられるのは、①国籍・信条・社会的身分・労働組合運動についての通信をすること ②第1項・第2項の証明書に秘密の記号を記入すること の2つです

第3項は、書き足すこと自体を禁じています。動機は問うていません。請求されたのが使用期間と業務の種類なら、退職の事由は書きません。

7日以内に返すもの

第23条第1項です。スタッフが亡くなったとき、または退職したときに、権利者から請求があれば、7日以内という期限が掛かります。その期限の中で、賃金を支払い、金品を返さなければなりません。

返すものの範囲を、条文は広く取っています。条文が並べているのは積立金・保証金・貯蓄金で、そこにその他 名称の如何を問わずという言い方が続き、労働者の権利に属する金品までが範囲に入ります。医院で預かっているものがあれば、呼び名が何であっても対象になります。

第2項は、もめたときの規定です。その賃金や金品について争いが起きているときでも、異議のない部分は、同じ7日のうちに支払うか、返さなければなりません。全体がまとまるまで止めておく、という扱いにはなっていません。

守らなかったときの罰則は、2段に分かれている

労働基準法の罰則の章では、重さが2段に分かれています。

  • 第119条第1号 ここに第20条と第22条第4項が挙がっています。違反した者は、6月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金
  • 第120条第1号 ここには第22条第1項から第3項までと、第23条から第27条までが挙がっています。違反した者は、30万円以下の罰金

予告を飛ばすこと(第20条)と、証明書に秘密の記号を入れること(第22条第4項)が同じ側に置かれている、という並びです。

ここまでの各場面には、雇うときに決めた内容が関わってきます。書面で渡す項目は「歯科医院の労働条件通知書の書き方」に、退職や解雇の定めを置く就業規則そのものについては「歯科医院の就業規則は10人未満なら要らないのか」に整理してあります。

まとめ

この記事で読んだのは、労働基準法と労働契約法の条文です。

  • 解雇は、少なくとも30日前に予告する。しない場合は30日分以上の平均賃金。1日ぶん払えば、予告の日数をその分 短縮できる(労基法 第20条第1項・第2項)
  • 但書は2つ(天災事変その他やむを得ない事由で事業の継続が不可能/労働者の責に帰すべき事由)。ただし第3項が第19条第2項を準用していて、その事由について行政官庁の認定が要る
  • 予告が要らないのは4つの場合。ただし1号は1箇月、2号・3号は所定の期間、4号は14日を超えて引き続き使われると、この限りでない(第21条)
  • 証明書は2種類。ひとつは退職の場合に請求できるもの(第1項・5項目。退職の事由が解雇なら、その理由を含む)。もうひとつは、予告の日から退職の日までに請求できる、解雇の理由のもの(第2項)。どちらも遅滞なく交付する
  • 第2項には但書がある。予告の日以後に、当該解雇以外の事由で辞めたときは、その退職の日以後は交付しなくてよい
  • 請求しない事項は書かない(第3項)。第4項が禁じるのは2つ(通信と、証明書への秘密の記号の記入)で、どちらにも「第三者との事前の示し合わせ」と「就業を妨げる目的」が掛かる
  • 労働者の死亡または退職の場合に、権利者の請求があれば、7日以内に賃金の支払いと金品の返還。争いがあっても、異議のない部分はその期間中に支払うか返す(第23条)
  • 罰則は2段。第20条と第22条第4項は6月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金、第22条第1項から第3項までと第23条は30万円以下の罰金
  • 手続きの手前に、解雇そのものの有効性の問題がある(労働契約法 第16条)

根拠にした条文

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この記事を書いた人

近藤 宏海
近藤 宏海 株式会社ガラパゴスワークス 代表取締役

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私は歯科医院の事務の現場で、医院の開業から日々の運営まで、発注・納品・人の手続き・お金の管理を担ってきました。いまは歯科医院の開業コンサル・経営コンサルとして、ほかの医院の立ち上げや立て直しにも関わっています。

現場で「これがあれば」と感じたものを、自分の手で形にしたのが「事務長AI」です。いまも導入先の医院で使っていただきながら、改良を続けています。

記事では、現場で実際にぶつかった困りごとを、公的な資料で裏付けながら、明日から使える形でお伝えします。

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