常勤とパートを足すと、うちはちょうど5人。そろそろ社会保険に入らないといけないのだろうか。いや、歯科医師国保に入っているから関係ないはずだ。どちらも、歯科医院でよく聞く話です。
答えは、医院が医療法人か個人立かと、スタッフが何人かで変わります。先に結論を言うと、医療法人なら人数に関係なく加入が必要、個人立なら常時5人以上で必要です。そして、いまは関係のない医院にも、これから順番に関係が出てきます。
この記事では、条文と公的な資料をたどって、その分かれ道だけを整理します。
まず結論 ── 医療法人か個人立かで、答えが変わります
| 医院の形 | 健康保険・厚生年金の扱い |
|---|---|
| 医療法人 | スタッフの人数に関係なく、加入が必要 |
| 個人立で、常時5人以上 | 加入が必要 |
| 個人立で、5人未満 | 義務ではない。手を挙げれば入れる(任意適用) |
根拠は2つの法律にあります。健康保険は健康保険法第3条、厚生年金は厚生年金保険法第6条です。書きぶりはほとんど同じで、次の2通りを「適用事業所」と呼んでいます。
- 法人の事業所で、常時 従業員を使っているもの。人数の条件はありません
- 法律が並べた事業にあたる事業所で、常時5人以上の従業員を使っているもの
この「法律が並べた事業」は17あり、医療がその1つに入っています。歯科医院はここに当たります。厚生労働省も、常時5人以上を使う法定17業種の個人事業所は加入が必要、と説明しています(厚生労働省「社会保険の加入対象の拡大について」)。
5人に足りない個人立でも、入る道はあります。そこで働く人の2分の1以上の同意を得て院長が申請し、厚生労働大臣の認可を受ければ、適用事業所になれます(健康保険法第31条、厚生年金保険法第6条)。人が採りにくい、辞められたくない、という理由でこの道を選ぶ医院もあります。
「常時5人以上」は、誰を数えるのか
ここでつまずく院長が多いところです。法律の言葉は「常時5人以上の従業員を使用するもの」。使う側である個人立の院長ご自身は、この「従業員」ではありません。
迷うのは、週に数日だけ来る衛生士や、学生アルバイトのような働き方です。日本年金機構は、常用的に使われているかどうかを、契約書があるかないかではなく、実際に働いて給与を受け取る関係が続いているかで見る、としています。試用期間中でも報酬が出ていれば、使用関係があるとされます(日本年金機構「適用事業所と被保険者」)。
逆に言うと、誰を5人に数えるかは、働き方ごとの判断になります。ここは記事で断定できるところではありません。スタッフの数が5人の前後にある医院は、自分で決めずに、名簿を持って年金事務所に確認してください。
人数で扱いが変わる制度は、社会保険のほかにもあります。数える相手も線も、制度ごとに違います。ストレスチェックについては歯科医院のストレスチェックは令和10年4月から義務 ── 10人を下回る医院がつまずく場所にまとめました。
パート・非常勤は、週に何時間から入るのか
適用事業所になったら、次はスタッフ1人ずつの話です。基準は2段構えになっています。
① 4分の3基準(すべての医院に関係します)
同じ医院で同じような仕事をしている常勤者と比べて、1週間の所定労働時間と1か月の所定労働日数が、どちらも4分の3以上ある人は、被保険者です。物差しが自院の常勤の働き方なので、常勤の所定労働時間が短い医院ほど、この線も下がります。この線は、平成28年10月から明確な形で運用されています(日本年金機構「適用事業所と被保険者」)。
② 週20時間のルール(いまは51人以上の事業所だけ)
4分の3に届かない人でも、次の要件をすべて満たすと被保険者になります。週の所定労働時間が20時間以上、学生でないこと、そして勤め先の従業員数が51人以上であること(厚生労働省「短時間労働者の社会保険の加入拡大のポイント」)。所定内賃金が月額8.8万円以上という要件もありましたが、令和8年10月1日に撤廃されました(下の「これから変わること」で説明します)。
最後の要件があるので、いまの歯科医院の多くには、②はまだ関係がありません。見るのは①だけです。ただし、そこで働く人の2分の1以上の同意があれば、規模が小さくても②の扱いを選べます。厚生年金を付けて求人を出したい医院には、使える手です。
加入したあと、保険料のもとになる標準報酬月額がどう決まるかは歯科医院の社会保険料、定時決定で10月の手取りが変わるに書きました。
歯科医師国保に入っている医院は、どうなるのか
ここがいちばん誤解の多いところです。法人になったり、常時5人以上になったりすると、その医院は健康保険の適用事業所になります。原則としては、スタッフは協会けんぽに移ることになります。
ただし例外があります。すでに国民健康保険組合(歯科医師国保もこれです)に入っている人は、組合の理事長と厚生労働大臣の承認を受ければ、そのまま組合に残れます。これを適用除外承認といい、健康保険法第3条が根拠です。申請できるのは、次のような場合です(日本年金機構「国民健康保険組合の加入手続きについて」)。
- 組合に入っている人を雇っている医院が、法人になった、または5人以上になったとき
- 組合に入っている人が、法人や5人以上の事業所を新しくつくったとき
- 上のどちらかで承認を受けた医院に、新しく人が入ったとき
- 組合に入っている人が、健康保険の適用事業所に勤めたとき
気をつけたいのは期限です。申請は、そのできごとが起きた日から14日以内。やむを得ない理由で遅れたときは、理由書を添えることになります(日本年金機構「就職したとき(健康保険・厚生年金保険の資格取得)の手続き」)。法人成りの登記や採用と重なる時期なので、いちばん抜けやすい14日です。
ここで抜けやすいのが、院長ご自身の扱いです。個人立のあいだは、院長は使う側なので被保険者になりません。ところが医療法人にすると、院長は法人に使用される人になります。日本年金機構も、適用事業所になるのは法人の事業所で、事業主のみの場合を含む、としています(日本年金機構「適用事業所と被保険者」)。つまり法人成りすると、スタッフだけでなく院長ご自身も健康保険・厚生年金の対象です。歯科医師国保を続けたいのであれば、院長ご自身についても適用除外承認の申請が要ります。上の一覧でいえば2つめ(組合に入っている人が、法人や5人以上の事業所を新しくつくったとき)にあたります。この14日も同じように動きます。
そしてもう1つ。この承認は健康保険だけの話です。厚生年金保険法で被保険者から外れる人を並べているのは第12条ですが、そこに国民健康保険組合の定めはありません。つまり、健康保険は歯科医師国保のまま続けられても、厚生年金には入ることになります。「国保のままで全部いける」ではない、というのがここでの答えです。
スタッフが5人を割ったら、抜けられるのか
退職が続いて、個人立の医院が常時5人を割った。もう義務ではないから外れられるのか。答えは「自動では外れない」です。
健康保険法第32条と厚生年金保険法第7条は、条件に当てはまらなくなった適用事業所について、任意適用の認可があったものとみなすと定めています。義務ではなくなっても、任意適用事業所として続くという意味です。やめるには、被保険者の4分の3以上の同意を得て、あらためて厚生労働大臣の認可を受ける必要があります(健康保険法第33条)。
入るときより、出るときのほうが同意のハードルが高い。ここは知っておいて損のない仕組みです。
これから変わること ── 規模の要件が、順番に無くなります
先ほど「②はまだ関係がない」と書きましたが、それは今の話です。令和7年の年金制度改正法で、②の従業員数の要件を段階的に小さくしていくことが決まりました(厚生労働省「短時間労働者の社会保険の加入拡大のポイント」)。
| いつから | 対象になる従業員数 |
|---|---|
| 現在 | 51人以上 |
| 令和9年10月から | 36人以上 |
| 令和11年10月から | 21人以上 |
| 令和14年10月から | 11人以上 |
| 令和17年10月から | 10人以下も |
歯科医院に引き寄せて読むと、こうなります。スタッフが11人以上いる医院は令和14年10月から、それより小さい医院も令和17年10月から、週20時間以上のパートを社会保険に入れることになります。最後には、規模の要件そのものが無くなるからです。
賃金の要件(月額8.8万円以上)のほうは、先に動きました。令和8年10月1日に撤廃されました。いまの健康保険法第3条第1項第9号と厚生年金保険法第12条第5号には、賃金の要件がありません。厚生労働省が掲載している改正法の法律案では、健康保険法と厚生年金保険法から8.8万円の要件を削る改正が附則第1条第1項第9号に置かれ、その施行日は政令で定めることになっていました(厚生労働省 年金制度改正法の法律案 案文)。その第9号の施行日を令和8年10月1日と定めたのが、政令第275号です(厚生労働省 施行期日を定める政令)。厚生労働省のリーフレット(加入拡大のポイント)は、この政令より前に作られたもので、「令和8年10月に撤廃予定」と書かれたままです。日本年金機構のページ(「短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用の拡大」)は10月1日に更新され、「撤廃予定」の一文はなくなっています。
撤廃の理由として厚生労働省が挙げているのは、令和7年度の地域別最低賃金が全ての都道府県で時給1,016円を超え、週20時間働けば自動的に8.8万円に届くようになったことです。ただし同じリーフレットは、最低賃金の減額の特例の対象になる短時間労働者のうち、月額賃金が8.8万円未満の人は原則として社会保険に加入しない扱いになり、申出があれば任意で加入できる、としています(厚生労働省「短時間労働者の社会保険の加入拡大のポイント」)。いずれにしても、これは②の話なので、51人未満の医院ではまだ効いてきません。
あわせて、個人事業所の対象業種も17業種から全業種に広がりますが、医療はもともと17業種に入っているので、歯科医院の扱いは変わりません(厚生労働省「社会保険の加入対象の拡大について」)。ここは安心して読み飛ばして構いません。
負担が増える側への手当てもあります。従業員数50人以下の医院などで新しく対象になる人のうち、標準報酬月額が12.6万円以下の人については、3年間、院長が保険料の負担割合を増やして本人の負担を軽くできる措置が用意されています。増やした分は制度全体で支援されます(厚生労働省「社会保険の加入対象の拡大について」)。
まとめ
- 医療法人なら人数に関係なく、個人立なら常時5人以上で、健康保険・厚生年金の適用事業所になります
- 誰を5人に数えるかは働き方で変わります。5人の前後にいる医院は、自己判断せず年金事務所へ
- スタッフ1人ずつの線は、まず4分の3基準。週20時間のルールは、いまは51人以上の医院だけの話です
- 歯科医師国保は適用除外承認で続けられますが、法人成りなら院長ご自身も申請が要ります。14日以内。厚生年金は別に加入します
- 5人を割っても自動では外れません。外れるには被保険者の4分の3以上の同意と認可が要ります
- 規模の要件は令和9年10月から順に下がり、令和17年10月には無くなります
この記事は制度の骨組みをまとめたものです。個々の医院の判断は、所轄の年金事務所か社会保険労務士にご確認ください。
この記事で確かめた資料
- e-Gov法令検索 健康保険法(第3条・第31条・第32条・第33条)
- e-Gov法令検索 厚生年金保険法(第6条・第7条・第12条)
- 厚生労働省「社会保険の加入対象の拡大について」
- 厚生労働省「短時間労働者の社会保険の加入拡大のポイント」(PDF)
- 厚生労働省 年金制度改正法の法律案 案文(PDF)(附則第1条第1項第9号・第3条・第33条)
- 厚生労働省 施行期日を定める政令(政令第275号・PDF)
- 日本年金機構「短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用の拡大」
- 日本年金機構「適用事業所と被保険者」
- 日本年金機構「就職したとき(健康保険・厚生年金保険の資格取得)の手続き」
- 日本年金機構「国民健康保険組合の加入手続きについて」(PDF)
事務長AIなら、ここが変わります
事務長AIは、勤怠・シフト・雇用契約を1か所にまとめます。いま医院に何人いて、1人ずつの所定労働時間が週に何時間か、契約の内容がどうなっているかを、名簿を作り直さずに見られます。届け出そのものは年金事務所や社会保険労務士の仕事ですが、その手前にある「数えて、そろえる」を院長の手から外せます。

