治療に専念したい。それだけなのに、気づくと発注書を作っている。夜、誰もいない診療室でレセプトを見ている。
結論を先に書きます。院長の手元に残すべきなのは「判断」だけです。その前段にある「材料集め」は、いま医院にいる人に渡せます。そして、どこまでが判断でどこからが材料集めなのかは、実ははっきり分けられます。
「診療する人」はいるのに、「事務をする人」がいない
歯科診療所で働いている人の内訳を、常勤換算の人数で見てみます。
| 職種 | 歯科診療所の常勤換算従事者数 |
|---|---|
| 歯科衛生士 | 134,110.3人 |
| 歯科医師 | 101,187.9人 |
| 歯科業務補助者 | 65,233.7人 |
| 事務職員 | 25,459.0人 |
| 歯科技工士 | 8,750.4人 |
出典:厚生労働省「令和5(2023)年 医療施設(静態・動態)調査・病院報告の概況」表25(令和5年10月1日現在)。同調査の活動中の歯科診療所は66,818施設。
診療にあたる人はきちんといます。事務職員だけが、桁が1つ足りない。施設数で割ると1施設あたり0.4人に届きません。
この差が、そのまま院長の残業になっています。事務が消えたわけではなく、事務は院長のところに積み上がっているだけです。
院長から外せない仕事は、法律で決まっている
まず、動かせない線を先に引きます。ここを曖昧にしたまま「全部任せたい」と考えると、危ない方向に行きます。
- 医療法第10条第1項:歯科医業をなす診療所の開設者は、臨床研修等修了歯科医師にこれを管理させなければならない
- 医療法第12条第1項:開設者が管理者となることができる者である場合は、自らその診療所を管理しなければならない(都道府県知事の許可を受けた場合を除く)
- 医療法第15条第1項:診療所の管理者は、従業者を監督し、その他管理及び運営につき、必要な注意をしなければならない
出典:医療法第10条・第12条・第15条(e-Gov法令検索)。条文は要旨として短くしています。
読み替えると、こうなります。「監督する」ことは院長から外せない。誰がどう動いているかを把握しておく責任は、管理者にあります。
逆に言えば、外せないのは監督であって、作業ではありません。棚を数えるのも、封筒を開けるのも、Excelに打ち込むのも、法律は院長がやれとは言っていません。
1つの仕事を3つに割ってみる
「発注」「レセプトの返戻」といった仕事の名前のままでは、渡せるかどうか判断できません。1つずつ、材料集め・判断・実行の3つに割ります。
| 仕事 | 材料集め(渡せる) | 判断(院長に残す) | 実行(渡せる) |
|---|---|---|---|
| 発注 | 在庫を数える。切れそうなものを一覧にする | 買うか/どれを買うか/いくらまで出すか | 決まったものを業者に送る。届いたか確認する |
| 返戻 | 返ってきたものを集めて理由ごとに分ける | 算定の考え方をどう直すか | 直した内容を提出する |
| シフト | 希望を集める。重なりに印をつける | 誰を優先するか | 確定した表を配る |
| 備品の修理 | 症状と型番、業者の連絡先を調べる | 直すか買い替えるか | 手配して、日程を全員に伝える |
この表を作ると、多くの院長が驚きます。自分がやっていた時間の大半は、真ん中の列ではなかったことに気づくからです。
見分けるための3つの質問
迷ったら、この3つを自分に聞いてください。
- 院長がやると、違う結論になるか。ならないなら、それは作業です。誰がやっても同じ答えが出るものは渡せます。
- 判断の基準を、言葉にできるか。「この業者は納期が早いから優先」と言葉にできるなら、それは渡せます。言葉にできないうちは院長に残ります。
- 間違えたとき、いくらの損になるか。金額で線を引けば、「◯円までは任せる」と言えます。人柄ではなく金額で決めると、渡す側も受ける側も楽になります。
3つめが、いちばん効きます。「まだ信用できないから」ではなく「この金額までなら任せる」と言えると、相手も動けます。
今日からできること
- 1週間、自分がやった事務作業をメモに書き出す
- それを、材料集め・判断・実行の3列に割る
- 「材料集め」の列を、1つだけいま居るスタッフに渡す。いきなり全部を渡さない
- 渡すときは「いつまでに、どんな形で、誰に出すか」を口頭でなく紙に書いて渡す
それでも残る面倒
渡したあとに、面倒が1つ戻ってきます。材料が上がってきたかどうかを、院長が確認しに行くことになる。
「在庫の一覧、できてる?」と毎週聞いているなら、負担は形を変えただけです。医療法第15条第1項が言う「監督」を果たすには、聞きに行かなくても状況が分かる状態が要ります。上がってきたものが院長のところに届く形になっていること。ここが、紙とExcelでは作りにくい部分です。
まとめ
- 歯科診療所の事務職員は常勤換算25,459.0人。事務は消えていない、院長に積み上がっている
- 医療法が院長に求めているのは「監督」であって「作業」ではない
- 仕事を材料集め・判断・実行に割ると、渡せる部分がはっきり見える
- 渡す線は、人柄ではなく金額で引く
- 渡したあとは「聞きに行く」のではなく「届く」形にしないと、負担は減らない
事務長AIなら、ここが変わります
スタッフが上げた発注依頼は稟議として院長に回ります。稟議に回す金額のしきい値は、医院ごと・費目ごとに設定できます。今日やること・タスク・日報・議事録も同じ画面にまとまるので、院長が一つひとつ聞きに行かずに済みます。売上・自費率・材料費率は、医院ごとと法人ぜんたいの両方で見られます。

