受付のスタッフから、妊娠したと打ち明けられた。おめでとうと言ったあとで、何をどこまで医院が決めなければならないのか、分からなくなる。こういう状態、ありませんか。先に結論を書きます。産前の休業は本人が請求したら与える、産後8週間は原則として働かせない、妊娠中や産後1年以内のスタッフが求めたら時間外・休日・深夜の勤務をさせない。そして、エックス線を扱う医院には、妊娠中の線量の上限という歯科ならではの決まりがあります。
この記事は、労働基準法・男女雇用機会均等法・電離放射線障害防止規則の条文と、厚生労働省の資料をもとに整理しました。働かせてよい時間の上限と36協定そのものは歯科医院に36協定は必要かで扱ったので、ここでは妊娠中・出産後のスタッフに限った決まりを見ます。
まず押さえること
- 産前は、本人の請求があれば休ませる。出産予定日の6週間前から(双子以上なら14週間前から)、本人が求めたら働かせてはいけません(労働基準法第65条第1項)
- 産後8週間は、原則として働かせない。本人の請求は要りません。ただし6週間を過ぎて本人が求め、医師が差し支えないと認めた業務なら就かせられます(同条第2項)
- 妊娠中と産後1年以内のスタッフが求めたら、時間外・休日・深夜の勤務をさせない。軽い業務への切り替えも、妊娠中の本人が求めたら応じる(同法第65条第3項・第66条)
- 健診を受ける時間を確保し、医師の指導を守れるようにする(男女雇用機会均等法第17条・第18条)
- 管理区域の中で放射線業務(エックス線装置の使用など)に就くスタッフは、妊娠と診断されてから出産までの線量に上限があります(電離放射線障害防止規則第6条)
産前産後休業 ── 産前は請求で、産後は請求がなくても休ませる
産前と産後で、休ませる条件が違います(労働基準法第65条・e-Gov法令検索)。
| 期間 | 休ませる条件 | |
|---|---|---|
| 産前 | 出産予定の6週間以内(多胎妊娠は14週間以内) | 本人が休業を請求したとき |
| 産後 | 出産後8週間を過ぎるまで | 請求がなくても働かせない。6週間を過ぎて本人が求め、医師が支障なしと認めた業務だけは可 |
産前は、本人が請求しなければ働き続けることもあります。いつから休むかを本人と早めに話しておくと、シフトを組み直す時間が取れます。
もう1つ、解雇の制限があります。第65条による産前産後の休業期間と、そのあとの30日間は、解雇してはいけません。条文にはただし書があります。そのうち第81条の打切補償は、仕事でけがや病気をした人(第75条の補償を受ける人)についての決まりで、産前産後休業の人には当てはまりません。産前産後休業で関わる例外は、天災事変その他やむを得ない理由で事業を続けられなくなった場合で、このときも行政官庁の認定を受ける必要があります(労働基準法第19条)。
妊娠中・産後1年以内のスタッフが求めたら、応じること
労働基準法は、妊娠中の女性と産後1年を過ぎていない女性をまとめて「妊産婦」と呼んでいます(第64条の3)。次の決まりは、どれも本人が請求したときに医院の義務になります(労働基準法第65条第3項・第66条・第67条)。
- 軽い業務への切り替え:妊娠中の本人が求めたら、ほかの軽易な業務に移す(第65条第3項)
- 法定労働時間を超えさせない:変形労働時間制を使っている医院でも、妊産婦が求めたら、1週・1日の法定労働時間を超えて働かせない(第66条第1項)
- 時間外・休日の勤務をさせない:36協定を結んでいても、妊産婦が求めたら残業と休日出勤をさせない(第66条第2項)
- 深夜の勤務をさせない(第66条第3項)
- 育児時間:生後1年に満たない子を育てる女性は、休憩とは別に、1日2回、それぞれ少なくとも30分の時間を求められる。その時間は働かせない(第67条)
このほか、重い物を扱う業務など、妊娠・出産・哺育(乳を与えて子を育てること)などに有害な業務に妊産婦を就かせてはいけない、という決まりもあります。どの業務が当たるかは厚生労働省令で決められています(第64条の3)。
健診の時間と、医師の指導を守れるようにする措置
男女雇用機会均等法は、妊娠中と出産後のスタッフが保健指導や健康診査を受けるための時間を、医院が確保できるようにしなければならない、としています(第17条)。確保する回数は施行規則で決まっています(男女雇用機会均等法施行規則第2条の5・e-Gov法令検索)。令和8年10月1日に施行された改正で、この決まりは第12条から第17条に、次の段落の措置は第13条から第18条に、回数を定める施行規則の条は第2条の4から第2条の5に移りました。条の番号が変わっただけで、中身は変わっていません。古い資料で第12条・第13条と書かれていたら、いまの第17条・第18条のことです。
| 時期 | 時間を確保する間隔 |
|---|---|
| 妊娠23週まで | 4週に1回 |
| 妊娠24週から35週まで | 2週に1回 |
| 妊娠36週から出産まで | 1週に1回 |
| 出産後1年以内 | 医師または助産師が受診を指示したとき、その指示どおり |
妊娠中の間隔も、医師や助産師がこれと違う指示を出したときは、その指示に合わせます。
健診で指導を受けたら、医院はスタッフがその指導を守れるように、勤務時間の変更や勤務の軽減などの措置をとります(均等法第18条第1項)。厚生労働省は、措置の例として、妊娠中の通勤の緩和(時差通勤や勤務時間の短縮など)、妊娠中の休憩の延長や回数を増やすこと、妊娠中や出産後の症状に応じた作業の制限や休業を挙げています。医師からの指導の中身を医院に正しく伝える道具として「母性健康管理指導事項連絡カード」の活用も案内しています(厚生労働省 働く女性の母性健康管理措置、母性保護規定について)。
エックス線を扱う医院で確かめること ── 線量の上限
ここは歯科医院に固有の分岐です。エックス線装置の使用は、労働安全衛生法施行令の別表第二で「放射線業務」に挙げられています(労働安全衛生法施行令 別表第二・e-Gov法令検索)。電離放射線障害防止規則は、管理区域の中で放射線業務に就く人を「放射線業務従事者」と呼び、受ける線量に上限を設けています(電離放射線障害防止規則・e-Gov法令検索)。
| 対象 | 上限 | 条文 |
|---|---|---|
| 放射線業務従事者のうち女性(妊娠の可能性はないとの診断を受けた人、すでに妊娠と診断された人は除く) | 実効線量が3か月につき5ミリシーベルト | 第4条第2項 |
| 妊娠と診断された女性の放射線業務従事者(診断されたときから出産まで) | 内部被ばくによる実効線量1ミリシーベルト、腹部表面に受ける等価線量2ミリシーベルト | 第6条第1項 |
管理区域とは、外部放射線などによる実効線量の合計が3か月につき1.3ミリシーベルトを超えるおそれのある区域などで、医院は標識で示し、必要のない人を立ち入らせてはいけません(同規則第3条)。妊娠を告げられたら、そのスタッフが管理区域の中で放射線業務に就いているかを確かめ、就いているなら妊娠中の上限を超えない配置になっているかを見直します。
妊娠や休業を理由にした不利益な扱いは禁止
男女雇用機会均等法第9条第3項は、妊娠・出産や、産前産後休業の請求・取得などを理由に、解雇その他の不利益な取扱いをすることを禁じています。対象になる理由は施行規則第2条の2に並んでいて、健診の時間や指導を守る措置を求めたこと、軽い業務への切り替えや時間外・深夜の免除を求めたこと、育児時間をとったこと、妊娠や出産による症状で働けない・能率が落ちたこと、なども入っています(男女雇用機会均等法第9条・e-Gov法令検索)。
さらに同条第4項で、妊娠中と出産後1年を過ぎていない女性に対する解雇は無効とされます。解雇が妊娠や出産などを理由にしたものではないと医院の側が証明した場合は、この限りではありません。
厚生労働省が挙げている、不利益な取扱いと考えられる例から、歯科医院の人事で起こりうるものを拾うと次のとおりです(厚生労働省 母性健康管理措置、母性保護規定について)。
- 解雇する
- 期間を決めて雇っているスタッフの契約を更新しない
- 退職を無理に求める。正職員からパートにするなど、契約内容の変更を無理に求める
- 降格する、減給する、賞与で不利な計算をする
それでも院長の手元に残る面倒
- 請求はいつ来てもおかしくない。時間外の免除も軽い業務への切り替えも、本人の請求で義務になります。請求を受けた日と中身を、その場で記録しておかないと、シフトを組む人と話が食い違います
- 健診の日は、週数で間隔が変わる。妊娠24週と36週を境に間隔が短くなるので、予定日から逆算して、シフトの空け方を先に決めておくと慌てません
- 育児休業と、健康保険からの給付は、この記事では扱っていません。育児休業の申出を受けたときの医院側の手続きと期限は歯科医院の育休、断れない ── 医院側の手続きと期限にまとめました。育児休業は育児・介護休業法の制度で、厚生労働省が法令・パンフレット・Q&Aをまとめています(厚生労働省 育児・介護休業法について)。出産に関する給付は、スタッフが加入している健康保険に確かめてください
まとめ
- 産前は出産予定の6週間以内(多胎14週間以内)に請求があれば休ませ、産後8週間は請求がなくても原則として働かせない(労働基準法第65条)。休業期間とその後30日間は解雇できない(第19条)
- 妊娠中の本人が求めたら軽い業務に切り替え、妊産婦が求めたら法定労働時間の超過・時間外・休日・深夜の勤務をさせない。育児時間は1日2回、各30分以上(第65条第3項・第66条・第67条)
- 健診の時間を確保し(妊娠23週まで4週に1回、24〜35週は2週に1回、36週以降は1週に1回)、医師の指導を守れるよう措置をとる(均等法第17条・第18条、施行規則第2条の5)
- 管理区域で放射線業務に就く妊娠中のスタッフは、内部被ばく1ミリシーベルト・腹部表面2ミリシーベルトが上限(電離放射線障害防止規則第6条)
- 妊娠や休業の請求・取得を理由にした解雇その他の不利益な扱いは禁止(均等法第9条)
妊娠・出産の決まりを確かめた条文と資料
- 労働基準法(e-Gov法令検索) 第19条・第64条の3・第65条・第66条・第67条
- 男女雇用機会均等法(e-Gov法令検索) 第9条・第17条・第18条
- 男女雇用機会均等法施行規則(e-Gov法令検索) 第2条の2・第2条の5
- 労働安全衛生法施行令(e-Gov法令検索) 別表第二
- 電離放射線障害防止規則(e-Gov法令検索) 第3条・第4条・第6条
- 厚生労働省 働く女性の母性健康管理措置、母性保護規定について
- 厚生労働省 育児・介護休業法について
事務長AIなら、ここが変わります
シフトを月ごとに組み、勤怠に職員ごと・日ごとの出勤・退勤・休憩を入れられます。面談の記録には、話したことと次までの約束を残せ、本人も自分の記録を見られます。健診の日や休業に入る前の手続きは、期限を付けたタスクにしておけば、期限までの残りの日数と、期限を過ぎたことが表示されます。

