「同じ商品なのに、うちだけ高いのでは」。他院の院長と話して、そう感じたことがあるかもしれません。
先に結論を書きます。値切る前に、比べられる形にすること。歯科材料の見積は、入数・送料・キャンペーン・付帯サービスがばらばらのまま並んでいることが多く、そのままでは高い安いの判断ができません。比較の土俵をそろえるだけで、交渉しなくても下がる項目が見つかります。
この記事では、なぜ値段が違うのか、どうそろえるのか、そして値段が「動く材料」の扱い方を書きます。
なぜ同じ商品で値段が違うのか
理由は主に4つあります。どれも「ぼったくり」ではなく、取引の形の違いです。
- まとめて(総価で)決めている。「全部でいくら」で合意していると、1品目ごとの値段は誰も見ていません。
- 値段にサービスが含まれている。週2回の小口配送、緊急時の当日配送、機器の立会いや調整。これらの人件費は商品の値段に乗ります。
- 年間の購入量が違う。同じ商品でも、年に10箱買う医院と100箱買う医院では条件が変わります。
- 入数・規格が違う。同じ商品名でも入数が違えば、1本あたりの値段は変わります。ここを見落とすと「同じ商品」ではありません。
参考までに、医療用医薬品の世界では、国が流通のガイドラインを出しており、卸売業者と保険医療機関の取引について、原則としてすべての品目を単品ごとに交渉し、単品ごとの価格を明示した覚書などで契約することが求められています。
出典:厚生労働省 医療用医薬品の流通改善に向けて流通関係者が遵守すべきガイドライン(施行 平成30年1月23日/改訂 令和6年3月1日)
これは医薬品についてのガイドラインであり、歯科材料の取引を直接しばるものではありません。ただ「総価ではなく1品ずつ値段を決める」という考え方は、そのまま歯科材料の見積にも使えます。
比較できる形にする4つの手順
手順1 金額の大きい順に20品目だけ選ぶ
全品目を比べようとすると終わりません。直近1年ぶんの購入実績を仕入先ごとに出してもらい、金額の大きい順に並べて、上位20品目だけを対象にします。ここに医院の材料費の大半が集まっています。
手順2 「同じ商品」かを確認する
比べるのは商品名ではなく、メーカー名・品番・規格・入数の4つです。この4つが一致してはじめて同じ商品です。相当品・同等品を提案されている場合は、別の商品として扱います。
手順3 「1回あたり」に割り戻す
入数が違う見積は、そのままでは比べられません。箱の値段を入数で割って、1本あたり・1gあたり・1回使用あたりにそろえます。表にすると次のようになります。
| そろえる項目 | ありがちなズレ |
|---|---|
| 単位 | 箱・本・g・セットが混在している |
| 税 | 片方が税抜、片方が税込 |
| 送料 | 「〇円以上で送料無料」の条件が違う |
| 最低ロット | 5箱からしか買えない条件が付いている |
| 納期 | 翌日納品と週2回納品では、必要な在庫量が変わる |
手順4 値段に含まれているサービスを書き出す
「1本10円安いA社」と「高いが当日届くB社」を、値段だけで比べると判断を誤ります。医院が実際に使っているサービス(配送頻度・緊急対応・機器トラブル時の対応・返品の可否)を横に書き出してから比べます。使っていないサービスの分まで払っている場合は、そこが交渉の材料になります。
値段が「動く」材料は、別で見る
歯科用貴金属は、仕入先の努力とは関係なく相場で値段が動きます。そして保険診療で使う場合、収入の側(告示価格)も定期的に見直されます。
中央社会保険医療協議会(中医協)の資料によれば、告示価格は金・銀・パラジウムの取引価格の平均をもとに、3月・6月・9月・12月の年4回、上がり下がりの幅に関係なく見直しの対象になります。令和6年6月より前は、1月・4月・7月・10月でした。
たとえば、保険診療でよく使われる金銀パラジウム合金(金12%以上)の告示価格は、直近の2回でこう動きました。
| 適用される期間 | 告示価格(1gあたり) |
|---|---|
| 令和8年6月1日から | 5,746円 |
| 令和8年9月1日から(いま) | 5,232円 |
直近の改定は引き下げでした。新しい価格が適用されるのは令和8年9月1日からです。金銀パラジウム合金は1gあたり514円、率にして約8.9% 安くなりました。
金銀パラジウム合金(金12%以上)1gの告示価格
9月
3月
(いま)
単位は円(1gあたり)。令和7年9月から令和8年6月にかけて上がり続けましたが、令和8年9月の改定では下がりました。上がる一方とは限りません。
出典:中医協 総会の資料(令和7年10月17日・令和8年7月22日)
出典:中央社会保険医療協議会 総会 総-3 歯科用貴金属価格の随時改定について(令和8年7月22日)/同 歯科用貴金属価格の随時改定について(令和7年10月17日)。適用後の価格は 社会保険研究所「歯科用貴金属の材料価格、9月から引下げ」でも確かめました。
【訂正】令和8年9月9日。公開時、この表に令和7年12月時点の告示価格を載せていました。その後 令和8年3月・6月・9月に3回の改定があり、いまの告示価格は令和8年9月1日からのものです。この記事を読んで古い数字のまま採算を見積もられた方に、お詫びします。
ここで大事なのは、収入の側が3か月ごとに動くのに、仕入の側の値段をいつ確認したか覚えていない、という状態を作らないことです。とくに下がる改定のときは、収入だけが先に減ります。改定のたびに、少なくとも金属の仕入単価だけは仕入先に確認する。カレンダーに3月・6月・9月・12月と入れておくだけで済みます。
交渉の前にやっておくこと/それでも残る面倒
比較表ができたら、値引きを求める前に、次の2つを先に伝えます。
- 年間でどれだけ買うか。量が読めれば、仕入先も条件を出しやすくなります。
- どのサービスが要らないか。「週2回の配送は週1回でよい」は、値段を下げる正当な理由になります。
ただし、この比較を続けるのが難しい。理由ははっきりしています。
- 購入実績を出すのに、納品書と請求書を1枚ずつ拾わないといけない
- 作った比較表は、半年後には値段が変わっていて使えない
- 担当者が替わると、前回どんな条件で合意したかが分からなくなる
つまり1回の比較より、比べ続けられる形を作るほうが難しい。ここが手作業の限界です。
まとめ
- 値段が違う理由は、総価取引・付帯サービス・購入量・入数の違い。順に切り分ける。
- 比べるのは上位20品目だけ。メーカー名・品番・規格・入数が一致してはじめて「同じ商品」。
- 税・送料・最低ロット・納期をそろえてから、1回あたりに割り戻す。
- 歯科用貴金属の告示価格は3月・6月・9月・12月に見直され、上がることも下がることもある(令和8年9月は引き下げ)。そのたびに仕入単価も確認する。
- 難しいのは1回の比較ではなく、比べ続けられる形を持つこと。
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商品マスタと仕入先マスタを持ち、発注・受入・請求までを同じ画面でつなぎます。どの商品をどの仕入先からいくらで、いつ買ったかが残るので、比較表を毎回ゼロから作り直す必要がなくなります。費目ごとの集計もそのまま出せます。権限で金額を隠せるため、スタッフに仕入単価を見せずに発注を回すこともできます。

