歯科医院の雇用保険の加入条件、週20時間と31日の線

歯科医院の雇用保険の加入条件 ── 週20時間・31日の見込みと、雇ったときの届け出

社会保険は5人未満なら入らなくていいと聞いた。だから雇用保険も同じだろう。パートを雇うとき、そう考えていませんか。

先に結論を書きます。歯科医院の場合、雇用保険には医院の人数による線がありません。労働者を雇う事業は、それだけで適用事業です。そのうえで、スタッフ1人ずつについて週の所定労働時間が20時間以上で、31日以上雇われる見込みがあれば、パートでも原則として加入します。

この記事では、この2つの要件の読み方、扱いが分かれる人(同居の家族・学生・掛け持ち・65歳以上)、届け出の期限を、条文と厚生労働省の資料で整理します。健康保険・厚生年金の常時5人の話は歯科医院の社会保険、加入義務はどこからかで書きました。こちらは雇用保険の話です。

目次

医院の側には、人数の線が無い

雇用保険法第5条は、労働者が雇用される事業を適用事業としています。人数の条件は書かれていません(e-Gov法令検索「雇用保険法」)。

厚生労働省のQ&A(問2)で任意の適用とされているのは、農林水産業を個人で営み、ふだん雇う労働者が5人に届かない場合です(厚生労働省「Q&A~事業主の皆様へ~」)。歯科医院はこれに当たりません。

同じ問2の説明では、雇う人数が1人であっても、雇用保険と労災保険をあわせた労働保険が、原則として適用されます。個人立で常時5人未満の医院は、健康保険・厚生年金では強制適用の外ですが、雇用保険では外になりません。

スタッフ1人ずつの線 ── 週20時間と31日

雇用保険法第6条は、法律を適用しない人を号ごとに挙げています。裏から読むと、次の2つを両方満たす人が、原則として被保険者になります。厚生労働省のQ&Aも、この2つを加入の要件として示しています。

要件条文読み方(厚生労働省の資料から)
1週間の所定労働時間が20時間以上第6条第1号就業規則や雇用契約書などで、ふだんの週に働くことになっている時間で見ます
31日以上雇われる見込みがある第6条第2号期間の定めが無い契約なら、雇い入れた日から見込みがあると判断します

パートやアルバイトという呼び方は関係ありません。医院が入れたくない、本人も入りたくない、という場合でも、要件に当たる人は原則として加入します(厚生労働省 Q&A 問1)。

週20時間の数え方

厚生労働省の資料「被保険者について」は、所定労働時間の見方を次のように説明しています(厚生労働省「被保険者について」(PDF))。

  • ふだんの週として見るのは、祝日とその振替休日、年末年始、夏季休暇のような特別な休日を含まない週です
  • 週ごとの時間が短い周期で規則的に変わるなら、その1周期の平均で見ます
  • 所定労働時間を複数の週で決めているなら、各週の平均で見ます
  • 1か月単位で決めているなら、1か月の所定労働時間を12分の52で割った時間を週の時間とします。1年単位なら52で割ります

31日以上の見込みの判断

同じ資料は、契約期間ごとに次の例を挙げています。

契約の形見込みの判断
期間の定めが無い雇い入れた日から見込みあり
31日以上の期間を定めている雇い入れた日から見込みあり
31日未満の期間で、更新する旨が契約に書いてある雇い入れた日から見込みあり
31日未満の期間で、更新の定めが書いていない同じような契約の人が更新などで31日以上雇われた実績があれば、見込みあり
31日未満の期間で、更新しない旨が書いてある雇い入れた時点では見込みなし

表の「31日未満の期間で、更新する旨が契約に書いてある」の例として、資料は1か月契約を使っています。そこには注があり、31日ある月に1か月の期間で雇う場合は、更新の定めがあってもなくても、雇い入れた日から加入する、としています。

雇い入れたときに見込みが無くても、そのあと契約の延長などで31日以上雇う見込みになったら、そうなった日から加入する、とも資料は書いています。

第6条第2号には、括弧書きの例外もあります。31日以上雇われる見込みが無くても、その直前の2つの月それぞれで、同じ事業主の適用事業に18日以上雇われていた人は、この号では適用除外になりません。日雇いで働く人のうち日雇労働被保険者に当たる人も、同じ括弧書きで、この号の適用除外から外されています(第42条・第43条)。

このほか、本採用の前の試用期間中でも、要件を満たす働き方なら被保険者になる、と資料は書いています。

第6条は、上の2つのほかにも、季節的に雇われる人の一部、学生・生徒の一部、船員の一部、国や自治体などの事業に雇われる人の一部を、適用しない人として挙げています。歯科医院に関わりそうな学生は、次の節で扱います。

扱いが分かれる人 ── 家族・学生・掛け持ち・65歳以上

院長と同居している家族

Q&Aの問5では、事業主が個人で事業をしている場合、その事業主と一緒に住む親族は、原則として加入できない扱いです。法人でも、中身が代表者個人の事業と変わらないと認められるときは、同じ扱いになります。

ただし、次の3つをすべて満たせば加入できます。

  1. 事業主の指示を受けて仕事をしていることが、はっきりしている
  2. ほかのスタッフと同じように働き、それに見合う賃金を受けている。とくに勤務の時刻・休憩・休日・休暇や、賃金の決め方から締め日・支払日までが、就業規則などで決まっていて、ほかのスタッフと同じ管理になっている
  3. 取締役のように、事業主と利害が一致する立場にいない

同居の親族の資格取得届には、雇った事実と日付が分かる書類(契約書や賃金台帳など)に加えて、職業安定局長が定める書類を添えることになっています(e-Gov法令検索「雇用保険法施行規則」第6条第5項。第6項に、局長の定めで添付を省ける規定もあります)。Q&Aの問5は、手続きで雇用の実態が分かる書類を求める場合があるとして、要件に当たるか迷うときは事前にハローワークへ相談するよう案内しています。院長の配偶者が受付に入っている医院は、上の3つに照らして、就業規則・勤怠・賃金の管理がほかのスタッフと同じ形になっているかを、相談前に見直しておきます。

学生のアルバイト

第6条第4号は、学校教育法の学校・専修学校・各種学校の学生や生徒のうち、厚生労働省令で定める人を適用しないとしています。施行規則第3条の2は、次の人をその対象から外しています。つまり、次の人は要件を満たせば加入します。

  • 卒業予定で、卒業したあとも同じ事業に引き続き雇われることになっている人
  • 休学中の人
  • 定時制の課程に在学している人
  • これらに準ずる人として職業安定局長が定める人

厚生労働省の資料「被保険者について」は、昼間の学生でも被保険者になる人として、次の4つを挙げています。

  • 卒業見込みの証明があり、卒業前に就職して、卒業後も同じ事業所に勤める予定の人
  • 休学中の人(その事実を証明する文書が要ります)
  • 事業主の命令や承認を受けて、雇われたまま大学院などに在学する人
  • 出席日数を課程を終える要件にしない学校に在学し、その職場で同じ種類の仕事をするほかの労働者と同じように勤められると認められる人(その事実を証明する文書が要ります)

そのうえで、通信教育を受けている人、大学の夜間学部の人、高校の夜間や定時制の課程の人など以外の学生・生徒は、この4つに当たる人を除いて、雇われても被保険者にならない、と説明しています。

歯科衛生士の学校に通いながら医院で働き、卒業後もそのまま勤める予定の人は、1つ目に当たるかを確かめてください。

2つの医院を掛け持ちしている人

Q&Aの問6では、2つ以上の勤め先のどちらでも要件に当たる人は、暮らしを支える主な賃金をもらっている側の勤め先でだけ加入します。要件は1つの勤め先の中で満たしている必要があり、どの勤め先でも当たらなければ加入になりません。2か所の合計が20時間を超えていても、どちらの医院でも20時間に届かなければ、原則として加入になりません。

例外が65歳以上の人です。65歳以上で、1つの勤め先では週20時間未満でも、2つの勤め先の合計が週20時間以上なら、本人が申し出た日から高年齢被保険者になれます。1つの勤め先ごとの時間には、省令で下限があります(雇用保険法第37条の5)。

65歳以上のスタッフ

第6条の適用しない人の中に、年齢の号はありません。65歳以上の人も、週20時間・31日の要件を満たせば被保険者になり、高年齢被保険者と呼ばれます(第37条の2)。

届け出の期限と出し先

雇用保険法第7条は、スタッフが被保険者になったこと、被保険者でなくなったことを、事業主が届け出るよう定めています。期限は省令と徴収法(労働保険の保険料の徴収等に関する法律)にあります。

いつ届け出期限根拠
初めて人を雇ったとき成立届(労働基準監督署へ。Q&A問2)保険関係が成立した日から10日以内徴収法第4条の2
初めて人を雇ったとき設置届(ハローワークへ)事業所を設けた日の次の日から数えて10日以内施行規則第141条
スタッフが加入したとき資格取得届(ハローワークへ)加入した月の翌月10日まで施行規則第6条
スタッフが外れたとき資格喪失届(ハローワークへ)外れた日の次の日から数えて10日以内施行規則第7条

徴収法第4条は、雇用保険の保険関係が、事業が始まった日に成立するとしています(e-Gov法令検索「労働保険の保険料の徴収等に関する法律」)。Q&Aの問2が示す順番は、まず監督署に成立届を出し、受理された控えなどを持ってハローワークへ行き、設置届と資格取得届を出す、というものです。

書類について、条文で押さえておきたい点です(雇用保険法施行規則)。

  • その事業主として初めて資格取得届を出すときや、期限を過ぎて出すときなどは、加入した事実と日付が分かる書類を添えます(第6条第4項。職業安定局長の定めで添付を省ける場合もあります)
  • 資格取得届は年金事務所を経由して出すこともできます(第6条第2項)
  • 資格喪失届には、外れた事実と日付が分かる書類を添えます(第7条第6項に、局長の定めで省ける規定もあります)。辞めたことが理由なら、離職証明書と、辞める前の賃金が分かる書類も添えます。倒産や事業所の廃止などに伴って辞めた人(第35条各号)や、解雇などの理由で辞めた人(第36条各号)の場合は、そのことを証明する書類も加えます。本人が離職票を希望しないときは離職証明書を省けますが、離職の日に59歳以上の人は省けません(第7条)
  • 雇用保険に関する書類は、完結の日から2年、被保険者に関する書類は4年保管します(第143条。雇用安定事業・能力開発事業の書類と、徴収法関係の書類は、この条から除かれています)

第7条の届け出をしない、または偽りの届け出をした事業主は、6月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金と定められています(雇用保険法第83条第1号)。また、スタッフ本人は、被保険者になったことの確認を、いつでもハローワークに請求できます(第8条)。

保険料は、原則として、払った賃金の総額に料率を掛けて出します。料率は年度で変わることがあります。年度の途中で保険関係が成立したときは、その日から50日以内に概算保険料を申告・納付します(徴収法第15条)。その後は毎年の年度更新で行います。窓口は労働基準監督署か都道府県労働局で、ハローワークの窓口では扱っていません(Q&A 問10・問11)。

今日からできる点検と、令和10年10月の変更

道具を買わなくてもできる点検です。スタッフの名簿と雇用契約書を並べて、1人ずつ次を書き出します。

  1. 契約書に書いてある週の所定労働時間(シフトで変わる人は周期の平均)
  2. 契約期間と、更新する・しないの書き方
  3. 学生か、院長と同居している家族か、ほかの医院と掛け持ちか
  4. いま雇用保険に加入しているか

1と2で要件に当たるのに、4で加入していない人がいたら、管轄のハローワークに相談してください。3に当たる人も、判断に迷うならハローワークです。Q&Aでも、迷ったときの相談先は事業所を管轄するハローワークとされています。

令和10年10月1日から、週10時間以上に

令和6年の改正(令和6年法律第26号)で、加入の線になる週の所定労働時間が、20時間以上から10時間以上に下がります。始まるのは令和10年10月1日です(厚生労働省 雇用保険部会の資料(PDF))。

短い時間だけ入る受付や歯科助手でも、週10時間以上の契約なら対象になり得ます。上の点検で、週10時間以上20時間未満の人に印を付けておくと、その時期に見直す相手がすぐ分かります。

それでも残る面倒

基本の要件は2つですが、判断の材料は契約書・シフト・名簿に散らばっています。所定時間を口約束のまま変えた、有期契約を更新した、家族が働き始めた。こうした変化のたびに、20時間の線をまたいでいないかを見直す必要があります。見直す材料が1か所に無いと、そのたびに紙を探すことになります。

まとめ

  • 歯科医院の場合、雇用保険には医院の人数の線が無い。労働者を雇う事業は適用事業(雇用保険法第5条)
  • スタッフ1人ずつ、週の所定労働時間20時間以上・31日以上の雇用見込みで、パートでも原則加入(第6条)
  • 同居の家族は原則加入できないが、3つの条件をすべて満たせば加入できる。学生・掛け持ち・65歳以上にも、それぞれの決まりがある
  • 加入した人の届け出は加入した月の翌月10日まで、外れた人の届け出は外れた日の次の日から数えて10日以内
  • 令和10年10月1日から、週の所定労働時間の線は10時間以上になる

出典にした条文と厚生労働省の資料

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事務長AIの雇用契約書は、スタッフごとに、週の所定日数・所定時間、契約期間、更新の有無を記録します。更新や条件の変更のときは、前の契約を残したまま新しい1本として作れるので、いつから週何時間の約束だったかを残しておけます。署名ずみの有期契約は、契約が終わる日を期限として一覧に立てます。雇用保険に入るかどうかの判定や、ハローワークへの届け出は行いません。その手前で材料をそろえる手間を、院長の手から外します。

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この記事を書いた人

近藤 宏海
近藤 宏海 株式会社ガラパゴスワークス 代表取締役

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私は歯科医院の事務の現場で、医院の開業から日々の運営まで、発注・納品・人の手続き・お金の管理を担ってきました。いまは歯科医院の開業コンサル・経営コンサルとして、ほかの医院の立ち上げや立て直しにも関わっています。

現場で「これがあれば」と感じたものを、自分の手で形にしたのが「事務長AI」です。いまも導入先の医院で使っていただきながら、改良を続けています。

記事では、現場で実際にぶつかった困りごとを、公的な資料で裏付けながら、明日から使える形でお伝えします。

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