令和8年10月1日から、インボイスの経過措置の割合が変わりました。9月30日までは80%、10月1日からの仕入れは70%です。免税事業者に払った分について、いくら仕入税額控除ができるか、という割合です。
ただ、この話が自院に関係あるかどうかは、先に切り分けが要ります。歯科医院は保険診療が消費税の非課税で、そもそも消費税を納めていない医院もあるからです。納めていなければ、控除の割合は関係しません。
この記事では、国税庁のインボイス制度に関するQ&A(令和8年4月改訂)と、国税庁のタックスアンサーをもとに、①自院に関係があるかの切り分け ②10月1日から何が変わったか ③1者あたりに入っている上限 ④帳簿に書くこと ⑤2割特例の終わり方 を整理します。
🔴 先に断っておきます。この記事は制度の形を確かめるためのものです。自院の数字を当てはめる話ではありません。当てはめは顧問税理士か、所轄の税務署へ。
まず、自院に関係のある話かどうか
順番に3つ見ます。
① 保険診療は消費税の非課税
国税庁は、非課税となる取引の一覧に社会保険医療の給付等を挙げています。健康保険法や国民健康保険法などによる医療、労災保険や自賠責保険の対象となる医療などが、そこに入ります。
そのうえで、同じページは除かれるものも書いています。美容整形、差額ベッド料金、市販医薬品の購入です。
🔵 ここからは書き手の読み取りです。このページが名指ししているのは上の3つで、歯科の自費診療を一つひとつ挙げているわけではありません。ただ、非課税とされているのが社会保険医療の給付等である以上、自費の診療や窓口で売る歯ブラシなどの物販は、そちらの側ではないことになります。判断は顧問税理士へ。
② そもそも消費税を納める側か(1,000万円だけで決めない)
🔴 ここはいちばん間違えやすいところです。先に結論を書きます。インボイスの登録をしているなら、課税売上高がいくらでも、納税の義務は免除になりません。「うちは1,000万円もないから関係ない」で止まらないでください。
順に見ます。国税庁の納税義務の免除の説明では、見る年は今年ではありません。見るのは基準期間。個人事業者なら前々年、1年決算の法人なら前々事業年度を指します。そこでの課税売上高が1,000万円以下なら、原則として納税の義務が免除されます。
ただし同じページは、1,000万円以下でも免除にならない場合を続けて挙げています。歯科医院に関わるものを拾うと、次のとおりです。
- 🔴 インボイスの登録をしている(適格請求書発行事業者として登録済み)。このときは免除されません。課税期間の途中で登録したときの扱いについては、別に経過措置が置かれています
- 特定期間のほうの売上が1,000万円を超える。特定期間とは、個人なら前年の上半期、法人なら原則として前の事業年度の最初の半年です。🔵 この判定には、売上の代わりに給与等の支払額を使う道もあります。細かい決まりは国税庁のページで確かめてください
- 消費税課税事業者選択届出書を出して課税事業者になっている課税期間
1つの数字だけで決まる話ではありません。国税庁のページには、ここに挙げた以外の場合も書かれています。
③ 消費税を納めている場合、その計算のしかた
この記事の本題である経過措置は、仕入れの実額から控除額を計算する場合の話です。あとで触れる2割特例のように、売上の側から控除額を決める方法を選んでいる課税期間では、仕入れ1件ずつの割合を数える場面がそもそも出てきません。
🔵 ①②③を通って「自院は消費税を納めていない」とはっきりしたなら、この先は読まなくて大丈夫です。今日の30分を、別のことに使ってください。
🔴 ただしインボイスの登録をしているなら、②で止まらないでください。登録していれば課税事業者です。この先の経過措置も、2割特例も、そのまま自院の話になります。
10月1日から変わったのは、免税事業者に払った分の割合
インボイスの原則はこうです。適格請求書発行事業者ではない相手からの課税仕入れについては、控除のために保存が必要な請求書等を受け取れないので、仕入税額控除ができません。国税庁は、この「適格請求書発行事業者以外の者」として、消費者、免税事業者、登録を受けていない課税事業者を挙げ、まとめて免税事業者等と呼んでいます。
ただし、制度の始まりからしばらくのあいだは、この原則に例外が置かれています。相手が免税事業者等であっても、払った消費税額にあたる分の何割かを、控除してよいものとして数えられる——という扱いです。これが経過措置と呼ばれるもので、割合は段階的に下りていきます。
| みなす割合 | 始まる日 | 終わる日 |
|---|---|---|
| 80%(これまで) | 令和5年10月1日 | 令和8年9月30日 |
| 70%(いま) | 令和8年10月1日 | 令和10年9月30日 |
| 50% | 令和10年10月1日 | 令和12年9月30日 |
| 30% | 令和12年10月1日 | 令和13年9月30日 |
いずれも仕入税額相当額に対する割合です(国税庁Q&A 問113)。段が下りる日はどれも10月1日ですが、1段の長さは同じではありません。80%だけが3年あり、70%と50%は2年ずつ、最後の30%は1年で終わります。
もうひとつ、10月1日をまたいだ取引で効く話があります。Q&Aは、どの割合を使うかをその課税仕入れの時期で判断する、としています。払った日ではありません。役務の提供なら原則としてその役務が全部 完了した日、商品なら原則として引き渡しがあった日が基準です。9月末に受け取って10月に払う、という場面では、ここを取り違えないでください。
🔵 「原則として」と書いたのは、同じQ&Aに別の答えがあるからです。短期前払費用として扱っているものについては、払った日の属する課税期間で経過措置を使える、とされています。ただし無条件ではありません。区分記載請求書等と同じ記載事項のある請求書等と、一定の記載をした帳簿を保存していること、という条件が付いています。自院がどれに当たるかは、顧問税理士へ。
🔴 ここは、いま出回っている説明が割れているところです。制度が始まった当初の予定では、令和8年10月1日から50%になることになっていました。その前提で書かれた記事や資料が、いまも残っています。上の表は、令和8年4月に改訂された国税庁のQ&Aのものです。手元の資料の日付を、一度 確かめてください。
見落としやすい上限が、1者あたりに入っている
割合の表のすぐ下には、注が付いています。金額の頭打ちです。令和6年10月1日、またはそれより後に始まる課税期間から、こういう扱いが入りました(条文の言葉は「以後」で、当日を含みます)。同じ相手について、経過措置の対象になる仕入れを1年ぶん足し上げる。その合計が決められた額を超えたら、超えた部分にはこの措置を使えない——という形です。
その一定の金額も、表で示されています。
これから効いてくるのは、下げられたほうの額です。令和8年10月1日、またはそれより後に始まる課税期間では、頭打ちは税込みで1億円。🔴 ここは条文が「以後」と書いているところなので、その日ちょうどに始まる課税期間(9月決算の法人)も、こちらの1億円に入ります。
それより前 ── この頭打ちが入った令和6年10月1日から、80%の段が終わるまでのあいだに始まった課税期間 ── なら、税込みで10億円でした。10分の1に下がります。なお、令和6年10月1日より前に始まった課税期間には、この頭打ちそのものがありません。
どちらの金額も国税庁Q&A 問113の注に置かれています。
ここも、10月1日を境に下がる仕組みです。上限は取引先1者あたりで見ます。ここは書き手の注意です。足し上げるのは「その取引先に払った総額」ではなく「その取引先からの、経過措置の対象になる課税仕入れの額」です。非課税のものや対象外のものは入りません。とはいえ、まず取引先ごとに1年ぶん並べてみるところからしか始まりません。仕入先ごとの支払いが1か所にまとまっていれば、その一歩は早く済みます。
帳簿に書く「旨」
この経過措置を使うには条件があります。帳簿と請求書等を保存しておくことです。そして帳簿のほうには、ふだん書いている事項に加えて、その仕入れが経過措置の対象だと分かる書き方を1つ足す必要があるとされています。国税庁が例に挙げているのは「80%控除対象」や「免」です。
Q&Aが帳簿の記載事項として並べているのは、次の4つです。
- 誰から仕入れたか(相手の氏名または名称)
- いつ仕入れたか(年月日)
- 何を仕入れたか(資産または役務の内容)。あわせて、この措置の対象だと分かる書き方
- いくら払ったか(支払対価の額)
🔵 ここは読みやすさのために言い換えています。帳簿に求められる正確な言い回しは、国税庁Q&A 問113で確かめてください。軽減税率の対象を仕入れたときは、③にもう1つ書く事項が加わります。
🔵 ここからは書き手の読み取りです。求められているのは「この仕入れは経過措置の対象だ」と分かることであって、何%かを書くことではありません。ただ、国税庁の例にならって「80%控除対象」と書く方式を採っているなら、10月1日から先の仕入れでは数字のほうが変わっています。9月までのやり方をそのまま続けると、帳簿の文字と実際の割合がずれます。
なお、請求書や領収書をどう残すかについては、歯科医院のカルテ保存期間をまとめた記事でも、消費税を納めている医院の請求書の控えに触れています。あちらは何を何年 置くか、こちらは何を書き加えるかの話です。
2割特例が使えるのは、令和8年9月30日を含む課税期間まで
免税事業者が登録して課税事業者になった場合に使える2割特例も、同じ日が区切りになっています。
国税庁Q&A 問114によれば、2割特例が使えるのは、令和8年9月30日という日を含む課税期間までです。始まりも同じ形で、令和5年10月1日という日を含む課税期間からです。納付税額の計算で差し引く金額を、売上に係る消費税額から一定のものを引いた残額の8割にできる仕組みで、結果として納める額は売上税額の2割になります。
使い方の敷居は低めに置かれています。簡易課税制度のように前もって届け出る必要はなく、いちど使ったら使い続けなければならない、という縛りもありません。申告書に、この特例を使う旨を書き添えれば適用を受けられる、とされています。
その先には3割特例が用意されています(同じQ&A)。使える年は令和9年分と令和10年分の課税期間。対象は個人事業者で、しかも免税事業者だった人が適格請求書発行事業者になる場合です。差し引く金額を残額の7割にできるので、納める額は売上税額の3割になります。
🔴 ここで見落とさないでほしいのが、3割特例の対象が「個人事業者」であることです。2割特例のほうにこの限定はありません。個人立の医院と医療法人とで、令和9年からの前提が変わります。
当てはめは、税理士か税務署へ
ここまで書いたのは、どの期間にどの割合が置かれているか、という制度の形だけです。自院がどの課税期間に当たるのか、どの方法で計算しているのか、どの支払いが経過措置の対象になるのかは、顧問税理士か所轄の税務署で確かめてください。
そのときに手元にあると話が早いのが、取引先ごとの年間の支払額と、その取引先が適格請求書発行事業者かどうかの2つです。どちらも、聞かれてから集めると時間がかかります。取引先ごとに実績を並べる、という作業そのものは、同じ商品でもディーラーで値段が違う話の出発点と同じです。あちらは品目ごとの単価を比べる表なので、そのままでは使えません。同じ元データから、別の切り口でもう1枚 作ることになります。
まとめ
- 令和8年10月1日から、免税事業者等からの課税仕入れに係る経過措置の割合が80%から70%になった。そのあと50%(令和10年10月から)、30%(令和12年10月から)と下がり、令和13年9月30日で経過措置そのものが終わる(国税庁Q&A・令和8年4月改訂)
- 🔴 当初の予定は「令和8年10月から50%」だった。古い前提で書かれた資料が残っている。日付を確かめる
- 1つの免税事業者等からの対象仕入れには上限があり、令和8年10月1日またはそれより後に始まる課税期間では税込み1億円(条文は「以後」=当日を含む)。超えた部分には適用できない(同Q&A 問113の注)
- 帳簿には、ふだんの記載事項に加えてこの措置の対象だと分かる書き方を足す。国税庁が挙げている例は「80%控除対象」「免」
- 2割特例が使えるのは令和8年9月30日という日を含む課税期間まで。令和9年・令和10年分には、個人事業者に限った3割特例が置かれている(同Q&A 問114)
- 保険診療は非課税、自費や物販は非課税の側ではない。基準期間の課税売上高が1,000万円以下なら原則として納税義務が免除される。ここに当たれば、割合の話は関係しない
- この記事は制度の形を確かめるもの。自院への当てはめは顧問税理士か所轄の税務署へ
この記事で読んだ資料
- 国税庁 消費税の仕入税額控除制度における適格請求書等保存方式に関するQ&A(PDF・令和8年4月改訂を含む)
- 国税庁 タックスアンサー No.6201 非課税となる取引
- 国税庁 タックスアンサー No.6501 納税義務の免除
事務長AIなら、ここが変わります
事務長AIには「仕入先・技工所」と「請求・支払」の画面があります。どの仕入先に、いつ、いくら払ったかが医院の中に残るので、取引先ごとの年間の支払額を出すときに、通帳と請求書を積み上げ直さずに済みます。発注から受入、請求までが1つの流れでつながっています。

