「うちの材料費、かかりすぎでしょうか」とよく聞かれます。先に結論を書きます。「材料費率は◯%が適正」という公的な基準値はありません。あるのは、全国の平均的な姿を示した統計だけです。この記事では、その統計の数字をそのまま置いたうえで、なぜそれを自院の目標にしてはいけないのか、では何を見ればいいのかを整理します。
まず、公的な数字を1つ置く
中央社会保険医療協議会(中医協)の「医療経済実態調査」に、歯科診療所の費用の内訳が出ています。厚生労働省の「医療経済実態調査(医療機関等調査)」のページには、この調査は2年に1回 実施する、と書かれています。最新は第25回(令和7年11月公表)です。
下の表は医療法人立の歯科診療所の数字です。医業・介護収益を100としたときの、それぞれの費用の割合(%)です。
| 費用の区分 | R6年度 | R5年度 | R4年度 | R3年度 |
|---|---|---|---|---|
| 給与費 | 49.1 | 49.4 | 48.0 | 47.8 |
| 歯科材料費 | 7.1 | 7.0 | 8.3 | 8.1 |
| 委託費 | 9.4 | 9.3 | 6.4 | 6.1 |
| (うち歯科技工委託費) | 7.8 | 7.7 | - | - |
| 医薬品費 | 0.9 | 0.9 | 1.0 | 1.0 |
| 減価償却費 | 4.4 | 4.7 | 4.5 | 4.6 |
| その他の医業・介護費用 | 23.5 | 23.3 | 23.3 | 23.4 |
歯科診療所(医療法人)の費用の構成比・令和6年度
歯科技工委託費は第25回調査から新設された項目です。第24回までの数字と単純に比べられません。
出典:第25回医療経済実態調査(厚生労働省・中央社会保険医療協議会/令和7年11月26日)
直近の令和6年度で、歯科材料費は7.1%。技工の外注費にあたる歯科技工委託費が別に7.8%です。
この数字を「目標」にしてはいけない理由
理由1:途中で数え方が変わっている
R4年度からR5年度にかけて、材料費は8.3から7.0に下がり、委託費は6.4から9.3に上がっています。ここで「材料費が下がった」と読むのは危険です。この表には、同じ資料の注が2つ付いているからです。
1つめの注は、R3年度とR4年度の数字は第24回医療経済実態調査の結果から引いたものだ、というもの。2つめは、第25回から「歯科技工委託費」が項目として追加され、「建物減価償却費」は項目から削除された、というものです。
つまり左の2年と右の2年は、別の調査から持ってきたもので、項目の立て方も変わっています。4年間ひと続きの推移として読むには向きません。国の統計ですらこうなります。自院の数字も、費目の定義を変えた年をまたぐと、同じことが起きます。
理由2:これは医療法人立の平均
上の表は医療法人立の集計です。個人立の医院は含まれていません。開設の形態が違えば費用の計上のしかたも変わります。自院が個人立なら、この7.1%は「近い業種の参考値」くらいの距離感で見るのが正しいです。
そのうえ、調査の対象そのものからも外れている医療機関があります。厚生労働省の「医療経済実態調査(医療機関等調査)」のページには、1か月の診療時間が100時間未満と推定される医療機関などは調査対象から除外する、と書かれています。全国の歯科医院を残らず数えた平均ではありません。
理由3:診療の中身で大きく動く
材料費率は、医院が何をやっているかで動きます。
- 自費が多い医院は、材料の単価も売上も上がる。率は下がることも上がることもある
- 技工を院内でやっているか、外に出しているかで、費用の入る場所が変わる
- 矯正・インプラント・訪問診療があると、材料の構成そのものが違う
- ユニット数と稼働率が違えば、同じ材料費でも率は変わる
だから「全国平均より高い=無駄がある」とは言えません。比べるべき相手は、去年の自院です。
自院の材料費率を、比べられる形にする
去年の自院と比べるには、物差しを固定する必要があります。決めることは4つだけです。
- 分母を決める。医業収益全体か、保険+自費の診療収入だけか。どちらでもいいので、決めて動かさない
- 技工料の置き場所を決める。材料費に入れるのか、外注費として別にするのか。ここがブレると、年ごとの比較が成り立たなくなります(第25回医療経済実態調査で項目の立て方が変わったのと同じことが、自院で起きます)
- 「買った額」か「使った額」かを決める。仕入額だけで見ると、月末のまとめ買いやキャンペーン購入で跳ねます。在庫の増減を差し引くと「使った額」に近づきます
- 単月で判断しない。たとえば3か月の移動平均にする、前年同月と比べる。どちらでも構いません(期間の取り方に決まりはありません。決めて動かさないことが大事です)
今日からできること(道具を買わなくても)
- 費目を3つだけ決めて紙に書き、レジ横に貼る。「材料」「技工」「その他」で十分です
- 月末に、在庫を棚ひとつ単位でざっくり数える。1円単位でなくていい。前月と比べて増えたか減ったかが分かれば目的は果たせます
- 仕入先ごとの月合計を出す。納品書を封筒に分けて入れておくだけでも、月末に電卓で足せます
- 誰が発注したかを納品書に書き込む。二重発注はここで見つかります
この4つを、たとえば3か月 続けてみてください。自院の材料費率が「だいたいこのあたり」と言える材料がたまります。医療経済実態調査の全国平均(医療法人立の歯科材料費7.1%)より、こちらのほうがはるかに役に立ちます。
それでも残る面倒
正直に書きます。手作業のままだと、次のところで止まります。
- 納品書の様式が仕入先ごとに違い、そのままでは足し合わせられない
- 同じ商品なのに、仕入先によって呼び名が違う
- 分院があると、どちらで使ったのか納品書からは分からない
- 棚卸しをする人が、いつも同じ人ではない
まとめ
- 「材料費率◯%が適正」という公的な基準値はない
- 参考になるのは医療経済実態調査。医療法人立の歯科診療所で、歯科材料費7.1%、歯科技工委託費7.8%(令和6年度)
- ただし調査自身が「項目を変えた」と注記している。年をまたぐ比較は慎重に
- 比べる相手は全国平均ではなく、去年の自院。そのために物差し(費目・分母・在庫の扱い)を固定する
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発注依頼から受入・在庫までを1本でつなぐので、「買った額」と「使った額」を分けて持てます。費目は法人ぜんたいで共通、商品マスタは医院ごとにも持てるので、去年の自院と同じ物差しで比べられます。材料費率は医院ごと・法人ぜんたいの両方で表示します。なお、レセコンとは直結しておらず、売上はCSVで取り込む形です。

