歯科医院の電子取引データ保存、メールの請求書も対象

歯科医院の電子取引のデータ保存 ── ディーラーの請求書がメールで届いたら

ディーラーからの請求書がメールのPDFで届く。通販サイトの領収書は、画面からダウンロードする。この2つは、税の世界では電子取引と呼ばれます。そして電子取引をしたら、そのデータを保存しなければならない、と法律に書かれています。

この記事では、電子帳簿保存法(正式な題名は長いので、リンク先で確かめてください)と、その施行規則の条文をもとに、①何が電子取引に当たるか ②保存の義務はどこに書かれているか ③どこに、いつまで置くか ④改ざん防止として選べる4つ ⑤できなかったときの道 を整理します。

扱うのは税務の側の話です。診療録や技工指示書のように、医療の側の法律で年限が決まっているものは、この記事の範囲に入っていません。そちらは歯科医院のカルテ保存期間は5年 ── 帳簿は何年かにまとめてあります。

先に、落としたものを断っておきます。施行規則の第4条第1項が求めているのは、下で扱う改ざん防止の措置だけではありません。同じ項が、第2条のいくつかの要件を読み込んでいます。データを探し出すための検索の要件や、画面と書面に、整然とした形式かつ明瞭な状態で、速やかに出せるようにしておくことなどです。条文の括弧書きが何重にも入っていて、このうち検索の要件には、売上高などによって緩む条件が付きます。この記事は、そのうち改ざん防止の側だけを拾います。読み込まれている第2条の要件のほうは扱いません。

目次

「電子取引」の定義が、思っているより広い

法律の第2条第5号が、この言葉を定義しています。組み立ては2段です。

まず「取引情報」とは何か。取引に関して受け取る、あるいは渡す書類に、ふつう書かれている事項のことだとされています。書類の例として条文が並べているのは、注文書、契約書、送り状、領収書、見積書、そしてこれらに準ずる書類です。

そのうえで「電子取引」とは、この取引情報のやりとりを電磁的方式で行う取引のことだ、としています。この「電磁的方式」も、法律が第2条第3号の括弧の中で定義している言葉です。大きなくくりは、人の知覚によっては認識することができない方式。電子的方式と磁気的方式は、そのくくりの中の例として挙がっています。電子か磁気のどちらかに当てはまるか、で切り分ける書き方にはなっていません。

紙で受け取っていれば紙の話で済みますが、同じ中身がデータで届いた時点で、こちらの条文の側に入ります。歯科医院でいえば、材料の注文をWebの画面で出して確認メールが返ってくる、技工所との見積のやりとりをメールでする、といった場面がそのまま当たります。

保存しなければならない、と書いてあるのは第7条

法律の第7条は短い条文です。対象と義務を、こう定めています。

  • 対象になるのは、所得税と法人税に係る保存義務者。ただし所得税のうち、源泉徴収に係る所得税は括弧で除かれています
  • 電子取引をしたときは、その取引情報の電磁的記録を、保存する義務がある
  • どう保存するかは、財務省令の定めるところによる

個人立の医院は所得税、医療法人は法人税で、どちらも入ります。「うちは個人だから」で外れる書き方にはなっていません。

最後の行が大事です。中身は法律ではなく財務省令、つまり施行規則の側に置かれています。以下は、その第4条の話です。

どこに、いつまで置くか ── 7年か、5年か

施行規則の第4条第1項は、場所と期間を、紙の場合に置き換えて決めています。その取引情報を書面で受け取っていたら、あるいは書面で送ってその写しを作っていたら、国税に関する法律の規定によって、その書面を保存すべきこととなる場所と期間がある。データも、その場所に、その期間 置く、という決め方です。

では、その「紙なら何年か」はどこに書いてあるか。電子帳簿保存法の側には出てきません。所得税と法人税、それぞれの施行規則です。

だれが何年か根拠
個人立の医院(青色申告者)原則 7年。ただし第3号の書類のうち、現金預金取引等関係書類に当たらないものは 5年。第3号の書類とは、取引の相手方から受け取った注文書・契約書・送り状・領収書・見積書と、その他これらに準ずる書類。自己の作成したこれらの書類で写しのあるものは、その写しも入ります所得税法施行規則 第63条第1項
個人立の医院(青色申告者)で、前々年分の不動産所得と事業所得の合計額が、所得税法施行令 第195条第1号に規定する金額以下の場合その年に作成・受領した第3号の書類は、起算日から 5年 を超えて保存しなくてよい同 第63条第2項
医療法人(青色申告法人)7年法人税法施行規則 第59条第1項
法人で、欠損金の繰越しの規定を使う場合その欠損金額が生じた事業年度の帳簿書類は 10年同 第26条の3第1項

表の7年と5年の行は、青色申告の場合の定めです。第63条は「青色申告者」、第59条は「青色申告法人」を主語にしています。青色申告でない場合について、規則には別の定めが置かれています。法人は、同じ規則の第67条第2項が、普通法人等(法人税法 第150条の2第1項に規定するもの)の帳簿と書類を7年としています。10年の第26条の3も、第3項で、青色申告書を提出する事業年度でない場合は第66条・第67条の帳簿と書類に読み替えて当てています。個人は、所得税法施行規則 第102条第4項に、所得税法 第232条第1項に規定する居住者等の定めがあります。第1項の帳簿は7年、そのほかの帳簿と、決算の棚卸表や請求書・納品書・送り状・領収書その他これらに類する書類などは5年です。自院がどの定めに当たるかは、税理士と確かめておくところです。

メールで届いた材料の請求書は、第63条第1項第3号に名前では出てきません。第3号が挙げているのは注文書・契約書・送り状・領収書・見積書と、その他これらに準ずる書類で、請求書は、この「準ずる書類」として第3号に入ると読めます。そのうえで、現金預金取引等関係書類に当たるかどうかで、7年と5年に分かれます。現金の収受や払出し、預貯金の預入や引出しに際して作られたものなどが、そちらに当たると規則の第3項が定めています。自院の分がどちらかは、税理士と1回 決めておくところです。

数え始めの日も決まっています。所得税法施行規則の第63条第4項は、帳簿ならその閉鎖の日の属する年の翌年3月15日の翌日、書類ならその作成または受領の日の属する年の翌年3月15日の翌日から数える、としています。受け取った日から7年、ではありません。

小規模の個人には、もう1つの定めがあります。第63条第2項です。その年3月15日の時点で、前々年分の不動産所得の金額と事業所得の金額の合計額が、所得税法施行令 第195条第1号(小規模事業者の要件)に規定する金額以下の青色申告者は、その年に作成・受領した第3号の書類を、起算日から5年を超えて保存しなくてよいとされています。第1項の規定にかかわらず、という書き方なので、現金預金取引等関係書類に当たるものも含まれます。金額そのものは政令の側に書かれていて、この記事の出典には入っていません。

改ざん防止は、4つのうちどれかを選ぶ

同じ第4条第1項が、続けて次に掲げる措置のいずれかを行いと書いています。ここは順番に全部やる手順ではありません。4つの選択肢から、どれかを選ぶ形です(この措置と並んで、冒頭で断った第2条の要件も同じ項に掛かっています)。

  1. タイムスタンプが記録事項に付された後で、その取引情報のやりとりを行うこと
  2. タイムスタンプを自分で付すこと。時期は2通りあり、やりとりの後に速やかに付すか、業務の処理にかかる通常の期間が過ぎた後に速やかに付すか。後者を選べるのは、受け渡しからスタンプを付すまでのあいだ、それぞれの事務をどう処理するかを決めた規程がある場合だけです
  3. 次のどちらかを満たすシステムを使って、やりとりと保存を行うこと。訂正や削除をしたときに、その事実と内容を確認できること。あるいは、訂正や削除そのものができないこと
  4. 正当な理由がない訂正と削除を防ぐための事務処理の規程を定め、その規程に沿って運用し、記録の保存とあわせて規程を備え付けること

4番目は、道具を買わずに選べる道です。規程を作り、そのとおりに運用し、規程そのものも一緒に置いておく ── この3つが揃って1つの措置になっています。作っただけ、では足りません。

規程を一から書く必要はありません。国税庁が「参考資料(各種規程等のサンプル)」として、電子取引データについて、訂正及び削除の防止に関する事務処理規程のひな形を公開しています。法人の例と個人事業者の例が別々に置かれていて、索引簿の作成例もあります(国税庁 参考資料(各種規程等のサンプル))。自院の実情に合わせて直して使う形です。

できなかったときの道が、第3項に置かれている

施行規則の第4条第3項です。第1項の要件どおりに保存できなかった場合について、2つの入り口が書かれています。

  • 災害その他やむを得ない事情のせいで保存できなかった ── そのことを証明したとき
  • 保存できなかったことに相当の理由があると、納税地等の所轄税務署長が認めたとき

2つ目には、さらに条件が付いています。国税の法律にもとづく求めに応じて、電磁的記録そのものと、それを出力した書面の両方を出せるようにしていること。書面のほうは、整然とした形式で、明瞭な状態に出力したものに限る、と括弧書きで絞られています。

この道を通るとどうなるかも、同じ項に書かれています。第1項の要件によらずに、その電磁的記録を保存してよい ── そういう定めです。保存しなくてよくなるのではありません。義務そのものは残ります。

そして第3項には、ただし書きが付きます。仮にその事情が起きていなかったとして、あるいはその理由が無かったとして、それでも要件どおりの保存はできなかった ── そう認められるときは、この道は使えません。事情があったから助かる、という形ではなく、事情が無ければできていたはずだという状態が前提に置かれています。

発注そのものの回し方を紙とファックスから変える話は「歯科材料の発注、Excelとファックスをやめるには」に書いています。

保存が要件どおりでないとき、隠したり作り変えたりしたとき

法の第8条には、この話にかかわる項が2つあります。

1つ目は第3項です。所得税法 第150条第1項第1号と法人税法 第127条第1項第1号 ── どちらも括弧書きで「青色申告の承認の取消し」と付いている規定 ── を読み替えて、電子取引のデータ保存を定めた第7条を、その中に書き加えています。第7条に沿った保存ができていないことが、青色申告の承認の取消しの事由になる、という組み立てです。青色申告の承認申請を却下する規定(所得税法 第145条第1号、法人税法 第123条第1号)にも、同じ読み替えが入っています。取消しの条そのもの(所得税法・法人税法の本文)は、この記事の出典に入っていません。

2つ目は第5項です。電子取引の取引情報にかかわる電磁的記録に記録された事項について、期限後申告や修正申告、更正、決定などがあり、国税通則法の重加算税の規定に当たるとき。その重加算税の額に、基礎となるべき税額の百分の十を乗じた金額が加算されます。対象になるのは、隠蔽し、または仮装された事実にかかわる部分です。

データで受け取ったものを消したり、書き換えたりしたときに効く項だと読めます。第3項が保存のしかたにかかわる読み替えなのに対して、第5項は隠したり作り変えたりしたときの上乗せです。

まとめ

  • 電子取引とは、注文書・契約書・送り状・領収書・見積書とこれらに準ずる書類に通常 記載される事項を、電磁的方式でやりとりする取引(法 第2条第5号)。電磁的方式とは、人の知覚によっては認識することができない方式のことで、電子的方式と磁気的方式はその中の例(法 第2条第3号)
  • 電子取引をしたら、その取引情報の電磁的記録を保存する義務がある。対象は所得税(源泉徴収に係る所得税を除く)と法人税に係る保存義務者(法 第7条)
  • 置く場所と期間は、その書類を紙で保存するとしたら決まる場所と期間(施行規則 第4条第1項)。年数は電子帳簿保存法の側ではなく、所得税と法人税の施行規則にあります。青色申告の個人は原則7年で、第3号の書類のうち現金預金取引等関係書類に当たらないものは5年(所得税法施行規則 第63条第1項)。前々年分の不動産所得と事業所得の合計額が、所得税法施行令 第195条第1号に規定する金額以下の青色申告者は、その年に作成・受領した第3号の書類を5年を超えて保存しなくてよい(同 第63条第2項)。青色申告の法人は7年(法人税法施行規則 第59条第1項)。欠損金の繰越しの規定を使う法人は、欠損金額が生じた事業年度の帳簿書類を10年(同 第26条の3第1項)。青色申告でない場合の定めは別の条(所得税法施行規則 第102条第4項、法人税法施行規則 第67条第2項)に置かれている
  • 改ざん防止は4つの選択肢からいずれか。規程を使う道(4号)は、定める・運用する・備え付ける の3つで1つ
  • できなかったときは第3項。災害等を証明するか、所轄税務署長が相当の理由を認め、そのうえで記録と出力書面の提示・提出に応じられるようにしていること。ただし、その事情や理由が無かったとしても、どのみちできなかったと認められる場合には使えない
  • 第7条に沿った保存ができていないことは、青色申告の承認の取消しの事由に読み込まれている(法 第8条第3項。所得税法 第150条第1項第1号、法人税法 第127条第1項第1号の読み替え)
  • 隠蔽し、または仮装された事実があって重加算税に当たるときは、基礎となるべき税額の百分の十を乗じた金額が加算される(法 第8条第5項)
  • 第4条第1項は、改ざん防止の措置と並んで、第2条の要件(検索の要件や、整然とした形式かつ明瞭な状態で画面と書面に速やかに出せるようにしておくことなど)も読み込んでいる。この記事は、そのうち改ざん防止の側だけを拾った

条文とひな形の在り処

事務長AIなら、ここが変わります

事務長AIは、「発注」から「納品受入」、「請求・支払」までを1つの流れで持ちます。どの仕入先と、いつ、いくらのやりとりをしたかが医院の中に残ります。なお、この記事が扱った電子取引データの保存そのものは、事務長AIの外の話です。要件を満たす置き場所は、別に用意してください。

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この記事を書いた人

近藤 宏海
近藤 宏海 株式会社ガラパゴスワークス 代表取締役

院長、その事務、ひとりで抱えていませんか。

私は歯科医院の事務の現場で、医院の開業から日々の運営まで、発注・納品・人の手続き・お金の管理を担ってきました。いまは歯科医院の開業コンサル・経営コンサルとして、ほかの医院の立ち上げや立て直しにも関わっています。

現場で「これがあれば」と感じたものを、自分の手で形にしたのが「事務長AI」です。いまも導入先の医院で使っていただきながら、改良を続けています。

記事では、現場で実際にぶつかった困りごとを、公的な資料で裏付けながら、明日から使える形でお伝えします。

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