保健所の立入検査で「医療安全の指針はありますか」と聞かれたら、すぐ出せるでしょうか。
先に結論を3つ。①根拠は医療法の第6条の12と、その受け皿である施行規則の第1条の11です。②入院させるための施設が無い歯科診療所では、条文の6つのうち2つ(委員会と医療安全管理者)が外れます。残りは外れません。③そのうえで、置くことになっている責任者が別にあります。
条文の括弧書きを1つずつ読むと、自院に何が要るかがはっきりします。届出まわりは施設基準の届出は出したのに、算定していない項目にまとめました。
根拠は2階建てになっている
1階が医療法です。第6条の12は、病院等の管理者に対して、安全を確保するための措置を求めています。求めているのは「指針の策定、従業者に対する研修の実施その他の措置」。「その他の」なので、指針と研修は大きなくくりの中の例です。中身は厚生労働省令に委ねられています(e-Gov法令検索 医療法)。
2階が施行規則の第1条の11です。ここに、具体的に何を確保するのかが並びます(e-Gov法令検索 医療法施行規則)。歯科診療所も「病院等」に含まれるので、この条文が当たります。
読むときのこつは、括弧の中の「限る」を先に拾うことです。この条文は、対象を絞る括弧書きがいくつも入っていて、そこで自院が外れるかどうかが決まります。
第1項の6つ ── 無床の診療所で外れるのは2つ
第1項は6号まであります。冒頭の括弧書きが、第2号と第5号の相手を絞っています。病院と、患者を入院させる施設を持つ診療所と、入所施設を持つ助産所。この3つに限る、という書き方です。入院させる施設が無い歯科診療所は、ここから外れます。
| 号 | 何を確保するか | 無床の歯科診療所 |
|---|---|---|
| 一 | 安全管理のための指針を整備する | 要る |
| 二 | 医療安全管理委員会を設置し、業務を行わせる | 外れる |
| 三 | 職員研修を実施する | 要る |
| 四 | 事故報告などの、安全を確保するための改善方策を講じる | 要る |
| 五 | 医療安全管理者を配置する | 外れる |
| 六 | 安全管理にかかわる記録を整備する | 要る |
第3号の研修は、目的まで条文に書かれています。安全への意識、ほかのスタッフと連携して働くという認識、そして安全に業務を進める技能。こうしたことの向上「等」を目的に、基本的な事項と具体的な方策を扱う、という組み立てです。「等」が付いているので、3つに閉じてはいません。回数は、この条文には出てきません。
第2項は「措置」── ここに責任者が出てくる
第1項の体制を確保するにあたって講じる措置が、第2項に並びます。歯科診療所に関わるものを順に見ます。
一 ── 院内感染対策
イからニまでの4つです。イが指針の策定、ロが委員会の開催、ハが従業者に対する研修の実施、ニが感染症の発生状況の報告その他の改善のための方策の実施。このうちロだけに、入院させる施設を持つところに限る、という括弧書きが付いています。無床の歯科診療所では、イ・ハ・ニが残ります。
つまり指針は、医療安全のものと院内感染対策のもので2本ということになります。1本にまとめてよいかは、条文からは読み取れません。
二 ── 医薬品安全管理責任者
医薬品を安全に使うための責任者を置いて、次のことを行わせます。従業者への研修の実施。安全な使用にかかわる業務の手順書を作り、その手順で業務を進めること(従業者に徹底させる措置も含みます)。そして、承認を受けていない医薬品の使用や、承認に係る用法・用量・効能又は効果と異なる用法等で用いる場合、禁忌に該当する使用についての情報収集など、改善のための方策の実施です。
歯科医院なら、局所麻酔薬や抗菌薬の扱いがここに当たります。手順書が1本 要る、というのがこの号のいちばん重い部分です。
三 ── 医療機器安全管理責任者
医療機器の安全使用のための責任者を配置し、従業者への研修、保守点検に関する計画の策定と、保守点検の適切な実施(こちらにも、従業者に適切な実施を徹底させる措置を含む、という括弧書きが付いています)、そして機器の使用に関する情報収集などを行わせます。
ここは「点検をしている」だけでは足りません。計画を立てることが、条文に別立てで書かれています。どの機器を、どの周期で、誰が見るか。そこが決まっていれば、形は問われていません。
三の二 ── 診療用放射線の安全利用の責任者
第2項の冒頭の括弧書きが、この号の相手を絞っています。エックス線装置、又は第24条の第1号から第8号の2までに挙がっているもの。そのどちらかを備えている病院や診療所です。歯科用のエックス線装置を置いている医院は、前者に入ります。
行わせるのはイ・ロ・ハの3つ。イが診療用放射線の安全利用のための指針の策定、ロが放射線診療に従事する者への研修の実施、ハが被ばく線量の管理・記録などの方策の実施です。
ただしハには、対象を挙げた枝が4つ付いています。厚生労働大臣が定める、放射線診療に使う医療機器。診療用の放射性同位元素を使う器具。陽電子断層撮影に使う放射性同位元素。そして診療用の放射性同位元素です。線量の管理と記録が及ぶ範囲は、この枝で決まります。自院の装置がどれに当たるかは、装置の届出の書類とあわせて確かめてください。指針と研修のほうは、枝が付いていません。
四 ── 診療所には当たらない
高難度新規医療技術や未承認新規医薬品等についての号です。冒頭の括弧書きが「特定機能病院及び臨床研究中核病院以外の病院に限る」としているので、診療所は入りません。
歯科医院の棚に、何が並ぶことになるか
ここまでを、無床の歯科医院に置き換えて並べ直します(e-Gov法令検索 医療法施行規則 第1条の11)。エックス線装置があるものとしています。
- 指針が3本 ── 医療安全、院内感染対策、診療用放射線の安全利用
- 手順書が1本 ── 医薬品の安全使用
- 計画が1本 ── 医療機器の保守点検
- 責任者が3人ぶん ── 医薬品、医療機器、診療用放射線
- 研修 ── 医療安全、院内感染対策、医薬品、医療機器、放射線診療に従事する者
- 記録の整備と、事故報告等の改善方策
紙の数を見ると多く感じますが、いま挙げた3人の責任者について、条文は資格も人数も定めていません。(無床の診療所では外れる医療安全管理者のほうには、知識を備え、かつ責任をもって業務を行う者、という書き方があります。)ただし医療機器安全管理責任者の資格は、厚生労働省の令和3年7月8日の通知が定めています。医療機器を適切に使う方法や保守点検の方法など、医療機器について十分な経験と知識を持つ常勤の職員であること、そして9つの資格(医師・歯科医師・薬剤師・看護師・歯科衛生士など。歯科衛生士は歯科医業を主として行う診療所の場合)のいずれかを持つことです。保守まで含めて医療機器を包括的に管理する実務ができる人であることも求めています。1人が複数を兼ねられるかどうかも、この条文には書かれていません。運用の細かいところは、都道府県や保健所の指導によります。立入検査の前に、管轄の保健所へ確かめるのがいちばん確実です。
棚を開けて、数えるところから
- 棚にある紙を数える。指針3本・手順書1本・計画1本。どれが無いかを先に知ります。
- 責任者を名前で決める。誰にするかが決まっていないと、研修も点検も始まりません。
- 研修をやった記録を残す形にする。日付、テーマ、出た人。第6号の「記録の整備」は、ここが土台になります。
- 保守点検の計画を書く。上の通知によると、計画は、機器の特性などから保守点検の必要があると考えられる機器について機種別に作り、医療機器名・製造販売業者名・型式と、点検の予定(時期・間隔・条件など)の4項目を書きます。すでに点検していても、計画が別に求められています。
- エックス線装置の届出の控えを出す。線量の管理と記録がどこまで及ぶかの判断に要ります。書類の置き場所は歯科医院のカルテ保存期間は5年 ── 帳簿は何年かもあわせて。
まとめ
- 根拠は医療法 第6条の12と、医療法施行規則 第1条の11です。
- 第1項の6号のうち、第2号(委員会)と第5号(医療安全管理者)は、入院させる施設を持つところに限られます。無床の歯科診療所では外れます。
- 院内感染対策は、指針の策定・研修・発生状況の報告等が残ります。委員会の開催だけが、入院させる施設を持つところに限られます。
- 医薬品安全管理責任者と医療機器安全管理責任者は、診療所にも置きます。医薬品は手順書、医療機器は保守点検の計画が、それぞれ別立てで書かれています。
- エックス線装置を備えている診療所は、診療用放射線の安全利用の責任者も置きます。被ばく線量の管理と記録が及ぶ範囲は、条文が挙げた4つの枝で決まります。
- 研修の回数、責任者の資格と人数は、この条文には書かれていません。なお医療機器安全管理責任者の資格は、令和3年7月8日の厚生労働省の通知が定めています。医療機器について十分な経験と知識を持つ常勤の職員で、9つの資格のいずれかを持つことなどです。
まず、棚にある紙を数えるところからです。足りないものが分かれば、あとは順番に埋めるだけになります。
この記事で当たった条文と通知
事務長AIなら、ここが変わります
事務長AIには、院内の決めごとを置く「マニュアル」、起きたことを残す「ヒヤリハット」、研修の記録を残す「教育・研修」があります。機器は「機器・契約の台帳」に、点検の周期や満了日と一緒に持てます。届出まわりは「施設基準・届出」、来る期限は「期限」(開くと「これから来るもの」)です。

