事務を1人 雇いたい。でも、求人票の「仕事内容」の欄で手が止まる。──この記事は、そこで止まっている院長に向けて書いています。
結論から書きます。人を探す前に、任せる範囲を1枚の紙に書いてください。そして、その紙に何を書くかは、実は法律がほとんど教えてくれます。ゼロから考える必要はありません。
「人手が足りない」ではなく「枠が無い」で止まっている
統計を1つだけ。厚生労働省の調査では、活動中の歯科診療所は66,818施設。これに対して、歯科診療所で働く事務職員は常勤換算で25,459.0人です。単純に割ると、1施設あたり0.4人に届きません。
出典:厚生労働省「令和5(2023)年 医療施設(静態・動態)調査・病院報告の概況」(令和5年10月1日現在。表3、表25)
つまり、多くの歯科医院にはそもそも「事務職」という枠が存在しません。院長がやるか、ベテランの衛生士・受付が診療の合間に兼務しているか、どちらかです。
ここが大事なところで、枠が無い場所に人を入れると、その人は「なんとなく手伝う人」になります。何をどこまでやったら終わりなのかが本人にも分からない。院長も評価できない。結果、半年で辞める。──よくある形です。
だから、雇うより先に枠を作ります。枠とは「任せる範囲」のことです。
範囲は「作業名」ではなく「終わり方」で書く
「発注を手伝ってもらう」——これは範囲になっていません。手伝うの中身が決まっていないからです。
範囲を書くときは、次の4つをそろえます。この4つがそろって初めて、本人が自分で始めて自分で終われます。
- いつやるか(毎週月曜の朝、月末、依頼があったとき)
- 何を見てやるか(棚、Excelの表、届いた封筒)
- どこまでやるか(一覧にするところまで/発注をかけるところまで)
- 誰に渡すか(院長/主任/そのまま完了)
実際に書くと、こうなります。
| やること | いつ | どこまで | 誰に渡す |
|---|---|---|---|
| 在庫の確認 | 毎週月曜の朝 | 切れそうなものを一覧にする(買うかどうかは決めない) | 院長 |
| シフト希望の集約 | 毎月20日まで | 全員分を集めて1枚にする。重なりに印をつける | 院長 |
| 業者からの電話 | 随時 | 用件・社名・折り返し先をメモする | 院長(金額の話は必ず院長へ) |
| 届いた郵便 | 毎日 | 開封して種類ごとに分ける。支払いのあるものは別にする | 院長 |
気づかれたと思いますが、この表には「決める」仕事が1つも入っていません。最初はそれでいいのです。判断を渡すのは、材料集めが安定してからで間に合います。
書くべき項目は、法律がすでに決めている
労働基準法第15条第1項は、労働契約を結ぶときに労働条件を明示しなければならないと定めています。何を明示するかは労働基準法施行規則第5条第1項に並んでいて、その第1号の3がこれです。
就業の場所及び従事すべき業務に関する事項(就業の場所及び従事すべき業務の変更の範囲を含む。)
出典:労働基準法施行規則第5条第1項第1号の3(e-Gov法令検索)。この「変更の範囲」は2024年4月から、すべての労働契約の締結時に明示が必要になりました(厚生労働省「2024年4月から労働条件明示のルールが変わります」)。
ここに、任せ方が止まっている理由がそのまま出ています。「変更の範囲」を書くには、今の範囲が決まっていないと書けません。「入ったときはこれ、将来はここまで」という2段を書く欄が、法律の側から用意されているわけです。
だから、労働条件通知書の様式をそのまま「任せる範囲の設計図」として使えます。義務だから仕方なく書く紙、ではありません。厚生労働省がモデル様式を公開しているので、白紙から作る必要もありません。
ただし1点。範囲を狭く書きすぎると、あとで別の仕事を頼みにくくなります。どこまでを「変更の範囲」に含めておくかは医院ごとの事情によるので、実際の書き方は社会保険労務士か、お近くの労働基準監督署・労働局にご確認ください。ここは断定できる話ではありません。
今日からできること
- 1週間、自分がやった事務作業をスマホのメモに書き出す(正確でなくていい)
- そのうち「判断が要らないもの」に印をつける
- 印のついたものを、さきほどの4つ(いつ/何を見て/どこまで/誰に渡す)で書き直す
- それが、求人票の「仕事内容」と、労働条件通知書の「業務」の欄になる
道具は要りません。紙1枚で足ります。
それでも残る面倒
範囲を紙に書いても、面倒は1つ残ります。決めた範囲どおりに進んでいるかを、誰が確かめるのか。
「月曜に在庫を数える」と決めても、数えたかどうかを院長が聞きに行くのなら、院長の手間は減っていません。頼んだこと・通したこと・終わったことが、聞きに行かなくても分かる形で残っている必要があります。紙とExcelでいちばん崩れるのが、この部分です。
まとめ
- 多くの歯科医院には「事務職」という枠がそもそも無い。枠が無い場所に人を入れると定着しない
- 範囲は「いつ/何を見て/どこまで/誰に渡す」の4つで書く
- 最初は「決める」仕事を渡さない。材料集めから渡す
- 書くべき項目は労働基準法施行規則第5条にそろっている。労働条件通知書を設計図として使う
- 残る課題は「決めたとおりに動いたか」が見えるかどうか
事務長AIなら、ここが変わります
雇用契約の内容を医院ごとに登録して残せます。任せた発注は「発注依頼 → 稟議 → 発注書 → 受入 → 在庫」の順に進み、誰が頼んで誰が通したかが記録として残ります。稟議に回す金額のしきい値は、医院ごと・費目ごとに決められます。権限の設定で、スタッフに金額を見せないまま発注を回すこともできます。

