やっと事務の人に来てもらえた。でも、初日の朝に困ります。何から教えればいいのか分からない。教える時間もない。
結論から。最初の1週間は「教える」のをやめてください。代わりに「見せて、書かせる」。院長が使う時間は、1日5分と、最終日の15分だけで足ります。そして、その5日間で本人が書いた紙が、そのまま医院のマニュアルの目次になります。
1週目に成果を出させようとしない
初日から「これをやって」と作業を渡すと、たいてい失敗します。理由は本人の能力ではありません。医院の中に何があるかを知らないからです。
材料がどこにあるか、業者が何社あるか、支払いがいつ来るか、誰に聞けばいいか。これを知らない状態で作業を渡されると、1つ手を動かすたびに人に聞くことになります。聞かれる側(=院長や主任)の手が止まり、「やっぱり自分でやったほうが早い」に戻ります。
だから1週目の目的は、成果ではなく地図です。医院の中に何があるかを、本人の頭に入れてもらう。それだけです。
最初の5日間の中身
教育の計画を組める院長は、そう多くありません。組まなくて済むように、日ごとに1つだけ決めておきます。
| 日 | 本人がやること | 院長がやること |
|---|---|---|
| 1日目 | 院内を一周し、物の置き場を自分でメモにする(材料・書類・鍵・在庫棚・郵便物) | 朝に一周だけ一緒に回る(15分) |
| 2日目 | 1日の流れを後ろから見る。開院前から締めまで。手は出さない | なし |
| 3日目 | 在庫を数えて、一覧にする。買うかどうかは決めない | 出てきた一覧を見る(5分) |
| 4日目 | 取引のある業者・ディーラーの一覧を作る。担当者名と連絡手段まで | 抜けている業者を1つ2つ足す(5分) |
| 5日目 | この1週間で分からなかったことを全部書き出す | その紙を受け取る(15分) |
5日目の紙がいちばん価値があります。そこに並んでいるのは、いままで院長の頭の中にしかなかったことの一覧です。「請求書をどこに置くか分からない」「この機械の業者が誰か分からない」——それが、そのままマニュアルに書くべき項目になります。
教育の計画を立てなくていいのは、このためです。本人に「分からないこと」を見つけてもらえば、教える順番は向こうから出てきます。
最初の1週間で渡してはいけないもの
渡す・渡さないの線は、間違えたときに取り返せるかどうかで引きます。相手を信用しているかどうかではありません。
- 現金・振込。金額の大小にかかわらず、1週目には渡さない。あとで疑いが生まれると、双方が不幸になります
- 業者との金額の話。単価は医院の条件そのものです。「金額の話が出たら院長に代わる」を初日に伝えておく
- 手順が決まっていない、患者に関わる作業。手順が固まっていないものを新人に渡すと、間違いが誰のせいにもできなくなります
- 「気づいたらやっておいて」という頼み方。範囲が無い依頼は、できてもできなくても評価できません
逆に、在庫を数える・郵便を分ける・業者一覧を作るといった仕事は、間違えても取り返せます。取り返せる仕事から順に渡す。これだけで、任せ方はかなり楽になります。
「試用期間だから」を軽く考えない
ここは、うろ覚えで動くと医院が損をする部分なので、条文を挙げます。
労働基準法第21条は、解雇の予告(第20条)を適用しない人を4つ挙げていて、その第4号が「試の使用期間中の者」です。ただし、同条のただし書にこうあります。
但し、……第四号に該当する者が十四日を超えて引き続き使用されるに至つた場合においては、この限りでない。
出典:労働基準法第21条(e-Gov法令検索)
つまり、試用期間であっても、14日を超えて働いてもらったあとは、解雇予告の規定がかかります。「試用期間中はいつでも辞めてもらえる」という理解は、条文とずれています。
もう1つ。労働条件の明示は、労働基準法第15条第1項により「労働契約の締結に際し」行うものです。入ってもらってから落ち着いたときに、ではありません。
個別のケース(試用期間の長さ、本採用に至らない場合の扱いなど)は事情によって結論が変わります。実際の運用は社会保険労務士か、お近くの労働基準監督署・労働局にご確認ください。
2週目以降に効いてくる小さなこと
- 1週目の終わりに15分だけ面談する。評価ではなく、5日目の紙を一緒に見るだけでいい
- 年次有給休暇は、入職から6か月の継続勤務などの要件を満たすと発生し、年10日以上付与される人については、使用者が基準日から1年以内に5日、時季を定めて与えなければなりません(労働基準法第39条第7項)。入職日をその場で控えておくと、あとで数えなくて済みます
- 教えたことは、その日のうちに1行でいいので文章にしておく。次の人のときに、丸ごと使えます
出典:労働基準法第39条第7項(e-Gov法令検索)。付与日数や要件の詳細は同条第1項〜第3項によります。
それでも残る面倒
5日目に出てきた「分からなかったこと」の紙。これを文章にする人が、医院の中にいません。
紙のまま引き出しに入り、次の人が入ったときにまた同じ質問が出る。多くの医院がここで止まります。1年後にもう一人 採用したとき、同じ1週間をもう一度やり直すことになるかどうかは、この紙を残せたかどうかで決まります。
まとめ
- 1週目の目的は成果ではなく、医院の地図を頭に入れてもらうこと
- 置き場のメモ → 1日を見る → 在庫を数える → 業者一覧 → 分からなかったこと、の5日
- 渡す線は「間違えたときに取り返せるか」で引く。現金と金額交渉は渡さない
- 試用期間中でも、14日を超えて引き続き働いてもらえば解雇予告の規定がかかる(労働基準法第21条)
- 5日目の紙を文章にできるかどうかで、次の採用の手間が変わる
事務長AIなら、ここが変わります
採用・雇用契約・勤怠・シフト・有給を、1か所で管理できます。面談と研修の記録も同じ場所に残ります。1週目に出てきた「分からなかったこと」は、マニュアルとして書き足していけます。次に人が入ったとき、同じ1週間をやり直さずに済みます。

