抜いた歯、使い終わった注射針、血のついたガーゼ。週に一度、業者が回収に来て、複写の伝票を1枚 置いていきます。あの紙の控えが、いま医院のどこにあるか、すぐ言えるでしょうか。
先に結論を3つ。①医院は「排出事業者」で、業者に渡したら終わり、にはなりません。②戻ってきた伝票の控えは5年置きます。③紙の伝票を使っているなら、毎年6月30日までに都道府県知事へ報告する義務があります。
③は、電子のしくみを使っていれば要りません。環境省のマニュアルと、廃棄物処理法の条文に当たって並べます。院内に置く書類の年数は歯科医院のカルテ保存期間は5年 ── 帳簿は何年かにもまとめてあります。
まず、責任者を決める ── 院長でもなれます
感染性廃棄物は、2つに分かれます。特別管理一般廃棄物にあたるものが感染性一般廃棄物、特別管理産業廃棄物にあたるものが感染性産業廃棄物です。この記事で扱うマニフェストと年1回の報告は、後者、つまり産業廃棄物の側の制度です。そして感染性廃棄物を出す施設は、管理する人を置かなければなりません。根拠は廃棄物処理法の第12条の2第8項です(環境省 廃棄物処理法に基づく感染性廃棄物処理マニュアル(令和8年4月))。
役職の名前は「特別管理産業廃棄物管理責任者」です。長いのですが、外から人を呼ぶ話ではありません。マニュアルは、施設の管理者みずからがこの責任者になっても構わない、とはっきり書いています。
なれる人は、施行規則の第8条の17で決まっています。感染性廃棄物に係る責任者なら、次のどれかに当たる人です。
- 歯科医師、歯科衛生士、医師、薬剤師、獣医師のいずれか。保健師・助産師・看護師、臨床検査技師・衛生検査技師も並んでいます
- 環境衛生指導員の職に2年以上 就いていた人
- 大学や高等専門学校などで、医学・薬学・保健学・衛生学・獣医学の課程を修めて卒業した人、またはこれと同等以上の知識があると認められる人
1つめに、歯科医師も歯科衛生士も入っています(上では読みやすさのために並べ替えました。規則の並びでは、歯科衛生士は最後です)。つまり歯科医院なら、院長そのものか、勤めている歯科衛生士がなれます。講習を受けに行く前に、まず名簿の上で誰にするかを決めてください。決まったら、その人が分別や梱包のやり方を決めて、スタッフに伝える役になります。
マニフェストは、渡す紙ではなく「戻ってくる紙」
処理を他人に任せるとき、医院は廃棄物を引き渡すその場で、決まった様式の伝票に必要事項を書いて渡します。これが産業廃棄物管理票、通称マニフェストです。根拠は法第12条の3第1項。そして同じ条の第6項が、最終処分まできちんと処理されたことを、返ってきた写しで確かめなければならないと続けます。
渡したら終わりではなく、返ってくるところまでが医院の仕事になっています。紙の伝票はA票からE票まであり、A票は渡したその場で医院の手元に残ります。運搬が終われば1枚、処分が終われば1枚と戻り、最後にE票が返ってきます。マニュアルは、返ってきたE票と手元のA票を突き合わせて、A票にE票の受領年月日を書く、という手順を示しています。
返ってこないときの、60日と180日
返ってこないまま日が過ぎたときの線が、2本 引かれています(同マニュアル 5.3)。
| いつから数えるか | 何が来ないと問題か |
|---|---|
| 交付の日から60日 | 運搬や処分を担う業者から、写しが送られてこない |
| 交付の日から180日 | 最終処分が終わったことを書いた写しが、送られてこない |
この期間を過ぎたとき、あるいは書くべきことが抜けていたり、嘘が書かれていたりする写しを受け取ったときは、医院のほうが動くことになります。速やかに状況をつかみ、必要な措置を講じ、様式第4号で都道府県知事へ報告します。報告の期限は30日以内ですが、どこから数えるかが場合ごとに違います。
| どんなとき | どこから30日か |
|---|---|
| 期間内に写しの送付を受けないとき | その期間が経過した日から |
| 書くべき事項が記載されていない写しを受け取ったとき | その写しの送付を受けた日から |
| 虚偽の記載のある写しを受け取ったとき | 虚偽の記載があることを知った日から |
この表は施行規則の第8条の29によります。環境省のマニュアルは、この3つをまとめて「期間が経過した日から30日以内」と書いています。記載漏れや虚偽の写しを受け取ったときにマニュアルの書き方で数えると、規則より遅い日付になります。ここは規則のほうに合わせてください。
この報告をしたことがない、という医院もあると思います。業者が期限内に返してきていれば、報告そのものは出番がありません。ただ、返ってきた紙がどこへ行ったかは、それとは別の話です。
電子のしくみを使う場合
紙のかわりに、環境大臣が指定した情報処理センターの電子マニフェストを使う道があります。委託にかかる情報を登録すれば、紙の伝票を出す必要はなくなります(法第12条の5第2項)。登録は、業者へ引き渡してから3日以内(日曜日・土曜日・休日等は数えません)。運搬や処分が終わると、センターから医院へ自動で通知が届き、医院はその通知で終了を確かめます。
なお、前々年度の感染性産業廃棄物の発生量が50トン以上だった事業場には、電子での登録が義務づけられています(法第12条の5第1項)。自院がこの量に届くかどうかは、業者の請求書や計量の記録で確かめられます。
毎年6月30日まで ── 紙の伝票を使っているなら
紙の伝票を使っている医院には、年に一度の報告があります。事業所ごとに、その年の3月31日以前の1年間で交付した紙の伝票について、廃棄物の種類と排出量、交付した枚数などをまとめ、毎年6月30日までに都道府県知事へ出します。様式は規則第8条の27の様式第3号です(e-Gov法令検索 廃棄物の処理及び清掃に関する法律施行規則)。
根拠の条文は法第12条の3第7項です。電子のしくみを使っている場合は、情報処理センターが集計して知事へ報告するので、医院が自分で出す必要はありません。マニュアルは、事務の負担が軽くなる点として、ここを挙げています。
締切のある手続きという意味では、施設基準の定例報告と同じ性質のものです。そちらは施設基準の届出は出したのに、算定していない項目で扱いました。年に一度しか来ない締切は、来年の自分に伝わる形で残しておかないと、まず忘れます。
5年 置くもの、4つ
置いておく年数は、どれも5年です。ただし数え始める日が違います(環境省 感染性廃棄物処理マニュアル 第5章)。
| 置くもの | いつから5年か | 根拠 |
|---|---|---|
| 委託契約書と、添付された書面 | その契約が終わった日から | 規則第8条の16の4 |
| 再委託を承諾した書面の写し | 承諾した日から | マニュアル 5.2 |
| マニフェストと、その写し | 交付や送付を受けた日から | 法第12条の3 |
| 処理の帳簿 | 1年ごとに閉じて、閉じた後から | 法第12条の2第14項・規則第8条の18 |
4つめの帳簿について、はっきりさせておきます。これは、業者に全部 任せている医院にも掛かります。廃棄物処理法の第12条の2第14項が、特別管理産業廃棄物を出す事業者に帳簿の備付けと記載・保存を求めていて、こちらには「政令で定めるもの」という絞りが付いていません(通常の産業廃棄物を定める法第12条第13項には付いています)。環境省のマニュアルも、帳簿の節を委託の有無で切っておらず、毎月末までに前月中の運搬と処分の事項を記載することとしています。運搬年月日、運搬先ごとの運搬量、処分年月日、処分方法ごとの処分量などです。
委託契約書は、契約が続いているあいだは捨てられませんし、終わってからさらに5年 残ります。
置き場所を決めるときのこつは、種類ごとではなく「いつまで置くか」ごとに分けることです。契約書の束と、返ってきた伝票の束を、年でまとめておく。そうすると、5年を過ぎたものを捨てる判断が1年に一度で済みます。
罰則と、資料が追いついていないところ
伝票を出さない、嘘を書く、保存しない。こうした違反には罰則が置かれています。法第27条の2は、該当する者を1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金に処する、としています(e-Gov法令検索 廃棄物の処理及び清掃に関する法律)。
ひとつ断っておきます。環境省のマニュアル(令和8年4月)は、この罰則を「懲役」と書いています。いっぽう、e-Govで引ける現行の条文は「拘禁刑」です。刑の名前が変わったあと、解説資料の側が追いついていない箇所です。この記事では条文のほうに合わせました。金額と年数は、どちらも同じです。
もう一つ、知っておいてよいことがあります。不適正な処分が起きたとき、都道府県知事は、処分をした者だけでなく、委託の基準に違反した者や、マニフェストに関する義務に違反した者にも、支障を取り除く措置を命じることができます(法第19条の5)。さらにマニュアルは、委託やマニフェストの義務に違反がない場合でも、一定の要件のもとで排出事業者が措置命令の対象になりうる、と書いています。その要件には、処理に見合った費用を負担していなかったときや、不適正な処分が行われていることを知ることができたとき、といったものが挙げられています。
安く引き受ける業者を選ぶときに、この一文は思い出してよい種類のものです。
今週 できること
- 責任者を名前で決める。院長でも、歯科衛生士でも構いません。決まっていないなら、そこが最初の穴です。
- 委託契約書の現物を探す。いつまでの契約かを見て、満了日を控えます。
- 返ってきた伝票の置き場所を1か所にする。年ごとに分けて、5年ぶんが並ぶ形にします。
- 帳簿があるかを確かめる。業者に全部 任せていても要ります。無ければ、毎月つける形をまず決めます。
- 紙か電子かを確かめる。紙なら、来年の6月30日までの報告が要ります。カレンダーに入れるのは今日で構いません。
まとめ
- 感染性廃棄物を出す施設は、特別管理産業廃棄物管理責任者を置きます(法第12条の2第8項)。歯科医師と歯科衛生士は、資格の1つめに入っています。
- マニフェストは渡して終わりではなく、最終処分まで返ってきた写しで確かめる義務があります(法第12条の3第1項・第6項)。
- 写しが来ない・記載が抜けている・虚偽がある、のいずれでも30日以内に知事へ報告しますが、数え始める日が場合ごとに違います(規則第8条の29)。
- 紙の伝票なら、毎年6月30日までに交付の状況を知事へ報告します。電子なら、この報告は要りません。
- 委託契約書・承諾書面の写し・マニフェスト・処理の帳簿は、いずれも5年 置きます。数え始める日が違う点に注意してください。
- 帳簿は、業者に全部 任せていても要ります(法第12条の2第14項・規則第8条の18)。毎月末までに、前月中の運搬と処分の事項を記載する扱いです。
- 違反には、1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金が置かれています(法第27条の2)。
どれも、器具を買い足さずにできることです。責任者の名前と、伝票の置き場所。この2つが決まれば、残りは順番に片づきます。
当たった資料
事務長AIなら、ここが変わります
事務長AIには、これから来る締切を並べる「期限」(開くと「これから来るもの」)があります。年に一度の報告日を、そこへ置けます。委託契約は「機器・契約の台帳」に、いつまで(満了日)を入れて持てます。誰にいつまでを頼むかは「タスク」に残ります。

