歯科医院の労働者名簿と賃金台帳、何を書き、何年置くか

歯科医院の労働者名簿と賃金台帳 ── 何を書いて、いつから何年 置くか

労働者名簿と賃金台帳は、労働基準法が各事業場ごとに調製しなければならないと定めた帳簿です。何を書くかは、法律と施行規則が項目まで決めています。名簿は法律の3つ+省令の6つ、賃金台帳は8つ。保存の年数と、その数え始めの日も条文にあります。

この記事では、労働基準法と同 施行規則の条文をもとに、①誰について作るか ②労働者名簿に書く項目 ③賃金台帳に書く項目 ④あわせて調製してよいこと ⑤保存期間と、その数え始めの日 を整理します。年限そのものの一覧は「歯科医院のカルテ保存期間は5年」にあるので、こちらは何を書くかの側を扱います。

目次

誰について、どの単位で作るか

労働基準法の第107条第1項です。使用者は、事業場ごとに労働者名簿を作り、決められた事項を記入しなければならない。そう書かれた条文です。読みどころが3つあります。

  • 作る単位は各事業場ごと
  • 対象は各労働者。ただし日日 雇い入れられる者は、括弧書きで除かれています
  • 書く事項として条文に出ているのは、氏名、生年月日、履歴、そして「その他厚生労働省令で定める事項」

第2項は、書いた内容が変わったときの話です。遅滞なく訂正しなければならない、とあります。対象は記入すべき事項の変更。住所が変わった、業務の種類が変わった ── そのたびに直す、という作りです。

賃金台帳のほうは第108条です。こちらも各事業場ごとに作ります。書くのは、賃金計算の基礎になる事項と賃金の額、そして省令で定める事項。書き入れる時期も条文にあって、賃金支払の都度 遅滞なく、台帳に記入しなければならない、とあります。

労働者名簿に書く項目 ── 省令が6つ足している

「その他厚生労働省令で定める事項」の中身は、労働基準法施行規則の第53条第1項にあります。様式第十九号の労働者名簿に、法律の3つ(氏名・生年月日・履歴)のほか、次の6つを記入しなければならない、という作りです。

  1. 性別
  2. 住所
  3. 従事する業務の種類
  4. 雇入の年月日
  5. 退職の年月日およびその事由。その事由が解雇の場合は、解雇の理由も含みます
  6. 死亡の年月日およびその原因

同じ条の第2項に、規模による例外が1つ置かれています。常時30人未満の労働者を使用する事業では、3号(従事する業務の種類)を記入しなくてよい、というものです。当たったとしても、外れるのは3号だけで、ほかの5つは残ります。

5号の括弧書きは、辞めたあとに効いてきます。退職の事由が解雇だったなら、その理由まで名簿に書くことになります。雇うときの書面に何を書くかは「歯科医院の労働条件通知書の書き方」に整理してあります。

賃金台帳に書く項目 ── 8つと、そのあとに続く4項

労働基準法施行規則の第54条第1項です。使用者は、次の8つを賃金台帳へ記入しなければならない、と定めています。書き方は労働者 各人別です。

様式も決まっていて、こちらは第55条です。常時使用される労働者については様式第二十号、日々雇い入れられる者については様式第二十一号で調製する、という書き分けです。前者の括弧書きは、1箇月を超えて引き続き使われる日雇いの人も含める、という読み。後者の括弧書きは、1箇月を超えて引き続き使われる人を外す、という読みです。名簿の側の様式第十九号と、番号が別なので混ざりません。

  1. 氏名
  2. 性別
  3. 賃金計算期間
  4. 労働日数
  5. 労働時間数
  6. 法第33条または法第36条第1項による時間外労働または休日労働、あるいは深夜(午後10時から午前5時まで)に働かせた場合の、延長時間数、休日労働時間数および深夜労働時間数。深夜の時間帯は、厚生労働大臣が必要と認める場合には、その定める地域または期間について午後11時から午前6時までになります
  7. 基本給、手当その他賃金の種類ごとにその額
  8. 法第24条第1項により賃金の一部を控除したときの、その額

同じ条には、このあとに4つの項が続きます。

  • 第2項 6号の労働時間数は、法の規定と異なる所定労働時間または休日を就業規則で定めた事業場では、その就業規則で算定する労働時間数に代えることができる
  • 第3項 7号の賃金の種類の中に、通貨以外のもので支払われるものがあるとき。記入しなければならないのは、その評価総額です
  • 第4項 日々 雇い入れられる者については、3号(賃金計算期間)を記入しなくてよい。ただし1箇月を超えて引き続き使用される者は、この除外から外れます(括弧書き)
  • 第5項 法第41条各号のいずれかに該当する労働者と、法第41条の2第1項により労働させる労働者については、5号(労働時間数)と6号(時間外・休日・深夜の時間数)を記入しなくてよい

7号の「賃金の種類ごとに」は、読み飛ばすと合計額だけの台帳になります。基本給と各手当を分けて書くことになります。

年次有給休暇管理簿、労働者名簿または賃金台帳は、あわせて調製できる

施行規則の第55条の2が、これを認めています。年次有給休暇管理簿、第53条による労働者名簿または第55条による賃金台帳を、あわせて調製することができる、という条文です。

別々のファイルで持たなければならない、とは書かれていません。ただし条文にあるのはあわせて調製することができるというところまでで、項目を減らしてよいとは書かれていません。

保存は5年。ただし「当分の間」3年

法の第109条です。保存の対象として並んでいるのは、労働者名簿と賃金台帳、それに労働関係の重要な書類です。重要な書類のほうは、雇入れ・解雇・災害補償・賃金に関するもの、そして「その他 労働関係に関する重要な書類」と条文が並べています。これらを5年間 保存しなければならない、という条文です。

ただし、附則の第143条第1項が、この条の適用について読み替えを置いています。当分の間、第109条の「五年間」は「三年間」と読む、というものです。いま実際に掛かっているのは3年のほうです。

あわせて調製できる相手の年次有給休暇管理簿にも、同じ形の定めがあります。施行規則の第24条の7が、有給休暇を与えた期間中と、その期間が終わってから5年間、保存しなければならない、としていて、同 附則の第71条が、当分の間この「五年間」を「三年間」と読み替えています。

期間と並んで条文が決めているのが、数え始めの日です。施行規則の第56条第1項が、書類ごとに別々に決めています。

  • 労働者名簿 労働者の死亡、退職または解雇の日
  • 賃金台帳 最後の記入をした日
  • 雇入れまたは退職に関する書類 労働者の退職または死亡の日
  • 災害補償に関する書類 災害補償を終わった日
  • 賃金その他 労働関係に関する重要な書類 その完結の日

そして第2項に、後ろへずらす規定があります。対象は賃金台帳、または5号の「賃金その他 労働関係に関する重要な書類」。その記録に係る賃金の支払期日が、上の2号または5号の日より遅いときは、その支払期日のほうを起算日にします。締めてから支払日までが月をまたぐ医院では、ここで起算日が後ろへずれます。

さらに第3項が、この第2項を別のものへ準用しています。労働者ごとに残す労働時間の状況の記録、所定の議事録、年次有給休暇管理簿、そして対象労働者ごとの記録。有給の管理簿も、賃金台帳と同じように起算日が後ろへずれることがある、ということです。

書かなかった、置かなかったとき

罰則も置かれています。労働基準法の第120条第1号に、違反した者は30万円以下の罰金とあり、そこに挙がっている条文の中に第106条から第109条までが入っています。この記事で見てきた名簿(第107条)、賃金台帳(第108条)、記録の保存(第109条)は、いずれもその範囲です(労働基準法)。

金額の大小より、3つがひとまとめに挙がっていることのほうが実務では意味を持ちます。名簿だけ整えても、台帳の保存が抜けていれば同じ号に掛かります。

まとめ

この記事で読んだのは、労働基準法と労働基準法施行規則の条文です。

  • 労働者名簿も賃金台帳も、各事業場ごとに作る(法 第107条第1項・第108条)。名簿の対象からは、日日 雇い入れられる者が括弧書きで除かれている
  • 名簿に書くのは、法の3つ(氏名・生年月日・履歴)+省令の6つ。退職の事由が解雇なら、その理由も含む(規則 第53条第1項)
  • 常時30人未満の事業では、3号(従事する業務の種類)を書かなくてよい。外れるのはこの1つ(規則 第53条第2項)
  • 賃金台帳は労働者 各人別に8項目。7号は賃金の種類ごとに額を書く(規則 第54条第1項)
  • 第1項のあとに4つの項が続く。就業規則で法と異なる所定労働時間または休日を定めた場合は6号の労働時間数をその算定で代えられる/通貨以外の賃金は評価総額/日々雇い入れられる者は賃金計算期間を要しない(1箇月を超えて引き続き使用される者を除く)/法第41条各号等に該当する労働者は労働時間数と時間外等の時間数を要しない(規則 第54条第2項〜第5項)
  • 年次有給休暇管理簿、労働者名簿または賃金台帳は、あわせて調製してよい(規則 第55条の2)
  • 保存は法では5年。ただし附則 第143条第1項により、当分の間は3年と読む。年次有給休暇管理簿も同じで、規則 第24条の7が定める5年を、同 附則 第71条が当分の間3年と読み替える
  • 数え始めの日は書類ごとに違う。賃金台帳または重要書類は、賃金の支払期日のほうが遅ければ、その支払期日が起算日(規則 第56条第1項・第2項)。第3項が、この後ろずれを年次有給休暇管理簿などにも準用している
  • 賃金台帳の様式は、常時使用される労働者が様式第二十号、日々雇い入れられる者が様式第二十一号(規則 第55条)
  • 名簿・賃金台帳・記録の保存(法 第107条・第108条・第109条)は、いずれも法 第120条第1号に挙がっている。違反した者は30万円以下の罰金

根拠にした条文と様式

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事務長AIには「従業員名簿」(開くと「人」)・「雇用契約書」・「勤怠」・「有給管理」があり、同じ場所から辿れます。氏名と雇入の年月日は従業員名簿に、基本給は雇用契約書に、労働日数と労働時間数は勤怠に入っています。分院がある医院では、医院ごとに分けて持てます。ただし、上で見た規則第53条の記入事項をそのまま満たす作りにはなっていません。生年月日・性別・住所の欄は、いまのところありません。法定の名簿は、別に整えてください。

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この記事を書いた人

近藤 宏海
近藤 宏海 株式会社ガラパゴスワークス 代表取締役

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私は歯科医院の事務の現場で、医院の開業から日々の運営まで、発注・納品・人の手続き・お金の管理を担ってきました。いまは歯科医院の開業コンサル・経営コンサルとして、ほかの医院の立ち上げや立て直しにも関わっています。

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記事では、現場で実際にぶつかった困りごとを、公的な資料で裏付けながら、明日から使える形でお伝えします。

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