1年ごとの契約で来てもらっている衛生士。気がつけば5回目の更新が近い。ここから先は、更新の紙に書いてある以上のことが起きます。
先に結論を3つ。①通算の契約期間が5年を超えた人が申し込むと、医院は承諾したものとみなされます。断るという選択肢がありません。②変わるのは、期間の定めが無くなることです。ほかの労働条件は、別段の定めを置いた部分を除いて、そのまま引き継がれます。正社員になる、という制度ではありません。③契約と契約のあいだが空くと、そこでリセットされることがあります。
根拠は労働契約法の第18条です。条文と、厚生労働省のハンドブックに当たって並べます。契約を結ぶときに何を書くかは歯科医院の労働条件通知書の書き方と2024年の追加で扱いました。この記事はその先、5年目に何が起きるかの話です。
第18条第1項 ── 申込みで、成立してしまう
条文の組み立ては、こうなっています(e-Gov法令検索 労働契約法)。
- 同じ使用者とのあいだで結ばれた、2つ以上の有期労働契約。まだ始まっていないものは数えません。
- その契約期間を通算した期間(通算契約期間)が、5年を超える労働者。
- その人が、いま結んでいる有期労働契約の期間が満了する日までのあいだに、満了日の翌日から働く、期間の定めのない労働契約の締結を申し込んだとき。
- 使用者は、その申込みを承諾したものとみなす。
「みなす」という書き方です。医院が返事をするかどうかは、成立に関係しません。申込みがあった時点で、次の契約は期間の定めのないものになります。
もう一つ、条文は転換後の労働条件についても書いています。いま結んでいる有期労働契約の内容と同じ労働条件になります。ただし2つのかっこが付いていて、契約期間は除かれること、そしてその労働条件について別段の定めがある部分は除かれることです。
つまり、給与も勤務日数も、そのままで引き継がれます。変えたいなら、就業規則などで別段の定めを置く必要があります。厚生労働省のハンドブックも、別段の定めをする場合は適用する就業規則にその旨を規定する必要がある、と書いています(厚生労働省 無期転換ルール ハンドブック)。
同じハンドブックは、こうも書いています。職務の内容などが変わらないのに、転換後の労働条件を前より低くすること。これは無期転換をなめらかに進めるという観点から見て、望ましいものではない。そして、定年のように有期契約の人には通常 定めていない条件を当てる必要がある場合は、適切に設定したうえで、あらかじめ明確にしておく必要がある、としています。
「正社員になる」ではない
ここは、言葉から受ける印象と条文がずれる場所です。条文が変えているのは、契約の期間だけです。パートの衛生士が申し込めば、いまの勤務日数のまま、期間の定めが無い契約になります。常勤になるわけでも、賞与が付くわけでもありません。
逆にいえば、定年の定めが無いまま期間の定めが消える、という状態も起きます。ハンドブックが「あらかじめ明確化しておく必要がある」と書いているのは、この点です。就業規則を先に見ておく理由が、ここにあります。長く働いてもらう形をどう作るかは歯科衛生士が辞めない医院がやっていることにも書きました。
第18条第2項 ── 空いた期間で、リセットされる
第2項は、契約と契約のあいだが空いた場合の扱いです。条文はこの空いた期間を「空白期間」と呼びます。ただし括弧書きがあり、前後の契約期間が連続していると認められる場合 ── その基準は厚生労働省令が定めます ── には、その空いた期間は空白期間から外れます。そのうえで、空白期間が一定の長さ以上であれば、その前の契約期間は通算に算入しない、という作りです。ハンドブックはこれを「クーリング」と呼んでいます。
長さの決め方が2通りあります(厚生労働省 無期転換ルール ハンドブック)。
| 空いた期間より前の通算 | どれだけ空けばリセットされるか |
|---|---|
| 1年以上 | 空いた期間が6か月以上 |
| 1年に満たない | その通算に2分の1を掛けた期間を基礎にして、厚生労働省令が定める長さ以上(ハンドブックは、端数を1か月単位で切り上げた長さとして説明しています) |
条文のほうは、1年に満たない場合の長さを直接 書いていません。その通算に2分の1を掛けた期間、それを基礎にして厚生労働省令が定める、という順に委ねています。細かい長さは省令で決まる、という構造です。
ここで気をつけたいのは、この規定は、契約を空ければ義務を避けられる、という意味ではないということです。空白期間を作るためだけに更新を止めれば、雇止めの問題が別に立ち上がります。第19条が、そちらを扱っています。
数え始めはいつからか
ハンドブックによると、数え始めの線は平成25年4月1日です。改正された労働契約法が施行された日で、この日以降に開始した有期労働契約から数える、という書き方をしています。それ以前に開始したものは、通算の対象にならない、とも書かれています。
長く勤めてもらっている人ほど、契約書の束を順に並べる作業が要ります。始まりの日と、終わりの日と、そのあいだの空白。この3つが分かれば、通算は数えられます。
医院が先にやっておくこと
- 契約書を年ごとに並べて、通算を数える。誰が何年目かが分かれば、あとは時間の問題です。
- 就業規則を開いて、定年の定めを確かめる。期間の定めが無くなったあとに効く条件が、書いてあるかどうかを見ます。
- 別段の定めを置くかどうかを決める。置くなら、適用する就業規則に規定する必要がある、とハンドブックが書いています。
- 申込みを受けたときの窓口を決める。誰が受けて、どこに残すかを先に決めておきます。条文は申込みの方式を定めていません。
- 雇用契約書の更新の欄を見直す。令和6年4月からの明示のルールは歯科医院の労働条件通知書の書き方と2024年の追加にまとめています。
まとめ
- 通算契約期間が5年を超える労働者が、いまの契約の満了日までに申し込むと、使用者は承諾したものとみなされます(労働契約法 第18条第1項)。
- 転換後の労働条件は、契約期間を除き、いまの有期労働契約と同じです。別段の定めがある部分は除かれます。
- 期間の定めが無くなるだけで、正社員になる制度ではありません。定年など、有期の人に通常 定めていない条件は、あらかじめ明確にしておく必要がある、とハンドブックが書いています。
- 空白期間が一定の長さ以上あると、その前の契約期間は通算に算入されません(同 第2項)。1年以上の通算のあとなら6か月以上、1年に満たない通算なら、その2分の1を基礎として省令で定める期間です。
- 通算は、平成25年4月1日以降に開始した有期労働契約から数えます。
5年は、気づいたら過ぎている長さです。契約書の束を並べて数える作業が、いちばん確実な備えになります。
当たった資料
事務長AIなら、ここが変わります
事務長AIには、契約を持つ「雇用契約書」と、人の一覧を見る「従業員名簿」(開くと「人」)があります。更新の日を「期限」(開くと「これから来るもの」)に置けば、何年目かを毎回 数え直さずに済みます。誰にいつまでを頼むかは「タスク」に残ります。

