返戻(へんれい=提出したレセプトが医院に戻ってくること)を減らそうとして、レセプト点検を厚くする。それでも件数が変わらない ── そういう相談を受けます。理由は、点検で防げる種類の返戻が、返戻全体の一部にとどまるからです。社会保険診療報酬支払基金が公表している統計を見ると、歯科の返戻の内訳ははっきりしています。まずその数字から見ていきます。
返戻の内訳を、数字で見る
支払基金は毎年度、審査状況を公表しています。下は令和7年度審査分の歯科(全請求者分・全管掌分)の総括表から、返戻にかかわる区分を抜き出したものです。
| 区分 | 件数 | 請求1万件あたり | 前年からの増減 |
|---|---|---|---|
| 請求 | 179,770,818件 | - | +3.4% |
| 資格返戻 | 311,355件 | 17.32件 | +6.2% |
| 事務返戻 | 30,578件 | 1.70件 | -26.6% |
| 審査返戻 | 1,009件 | 0.06件 | +6.0% |
| その他 | 130,532件 | 7.26件 | +15.5% |
返戻の内訳(令和7年度審査分・歯科)
保険証の資格が確認できないもの。この3つの中では約9割
記載の不備など。
前年から26.6%減っています
審査上の疑義。
この3つの中では0.3%(1,009÷342,942)
単位は件。資格返戻・事務返戻・審査返戻の3つを足すと342,942件で、うち資格返戻が90.8%(311,355÷342,942)。🔴 この割り算は、表の数字から私たちが計算したものです。
なお、資格返戻・事務返戻と同じ「資格返戻等」の欄には、もう1つ「その他 130,532件」があります。支払基金の用語の説明では「医療機関からの取り下げ依頼等によるもの」で、保険者から戻ってきたものではないため、この3つには入れていません。
出典:社会保険診療報酬支払基金「支払基金における審査状況 令和7年度」ZIP 内の 03支払基金における審査状況(歯科計).xlsx / ①総括シート
この3つを足すと342,942件。そのうち資格返戻が311,355件で、311,355 ÷ 342,942 = およそ9割(90.8%)です。この割り算は表の数字から私たちが計算したもので、支払基金がこの割合を公表しているわけではありません。診療内容についての返戻(審査返戻)は1,009件で、同じ足し算の中では 1,009 ÷ 342,942 = 0.3%ほどになります(これも私たちの計算です)。
言葉の意味(基金の説明そのまま)
- 資格返戻=保険者から受給資格がないとの申出があり、医療機関に返戻照会したもの
- 事務返戻=保険者からの申出のうち、事務内容について医療機関に返戻照会したもの
- 審査返戻=再審査の必要上、診療内容について医療機関に返戻照会したもの
- その他=医療機関からの取り下げ依頼等によるもの(上の割合には入れていません)
つまり資格返戻は、「その患者さんは、その日その保険に入っていませんでした」という戻り方です。処置の内容も、記載の書き方も関係ありません。
なお、この数字は支払基金(おもに社会保険)の分だけです。国民健康保険は国保連合会が別に扱っているため、ここには含まれていません。自院の患者構成によって、実際の割合は変わります。
減らない医院に共通すること
上の表には、もうひとつ読みどころがあります。事務返戻は前年から26.6%減っているのに、資格返戻は6.2%増えています。
記載の不備は、点検を厚くすれば減ります。実際に減っています。ところが資格の問題は、レセプトを何回見直しても見つかりません。レセプトの中に、間違いが書かれていないからです。ここに、努力が結果に結びつかない医院の構図があります。
返戻が減らないときは、次のどれかに当てはまっていないかを見てください。
- 返戻が来るたびに「点検が甘い」とスタッフに言っている(直せない原因を責めている)
- 返戻の理由を分類していない。だから何が多いのか分からないまま毎月やり過ごしている
- 保険の確認が「初診のとき1回」で止まっている
なぜ資格の返戻はなくならないのか
受付で保険証を確認した時点では、その情報は正しかった。それでも後から資格が変わることがあります。
- 転職・退職で保険が変わった。前の保険の資格は、退職日にさかのぼって失われる
- 扶養から外れた/扶養に入った
- 引っ越しで国保の保険者が変わった
- 患者さん本人が、変わったことを医院に伝えていない(悪気はありません。歯科医院に報告する発想がないだけです)
資格は、受付で確認したあとから変わります。通院の期間が長ければ、その間に資格が変わる機会は増えます。ここまでは仕組みの話で、「通院が長い患者さんの返戻が実際に多い」ことを示した数字は、私たちは確認できていません。それでも、補綴(ほてつ)や歯周治療で通院が長くなる患者さんがいる以上、この仕組みは歯科にも当てはまります。
今日からできること
1. 返戻に「理由の記号」を1文字つける
返戻が戻ってきたら、封筒の隅に「資」「事」「審」のどれかを書くだけです。集計表もソフトも要りません。半年分たまると、自院の内訳が全国の傾向と同じか違うかが分かります。対策を決めるのは、それを見てからで間に合います。内訳を知らないまま対策を決めると、効かないところに手間をかけることになります。
2. 保険の確認を「初診時」から「来院のたび」に寄せる
支払基金の「オンライン資格確認等」のページによると、オンライン資格確認は、窓口でマイナンバーカードのICチップを読み取るか、資格確認書の記号番号等を使うかして、その場でオンラインに資格情報を問い合わせる仕組みです(どちらか一方で足ります)。月をまたぐ患者さんについて、初診時の1回で終わらせない運用にしておくと、資格が変わったことに早く気づけます。
ただし、数字の読み方には注意が要ります。同じページには、原審査で令和4年10月から令和5年9月までの12か月間に、前年より約81.0万件 資格関係の返戻が減った(再審査では約10.7万件の減)と書かれています。これは全国・全科の数字で、歯科だけの内訳ではありません。しかも支払基金は、この減少をオンライン資格確認の効果と、レセプト受付時の資格確認による振替・分割の両方で説明しています。「自院が入れれば資格返戻が何件 減る」という数字ではありません。それでも、月をまたいだ後に気づくより早いことは確かです。
3. 長期の患者さんのリストを作る
たとえば3か月以上 続けて来ている患者さん、というように期間を決めて書き出しておきます(何か月で切るかは医院で決めてください)。長期の患者さんだけなので、全員を洗い出すよりずっと短いリストになります。このリストの人だけでも保険の再確認をすると、手間のわりに効きます。
4. 返戻を、人の失敗として扱わない
これがいちばん大事かもしれません。返戻を叱る医院では、返戻が院長に見えなくなります。机の引き出しに入り、再請求の期限が過ぎます。返戻は「起きるもの」として扱い、戻ってきた日付と処理した日付だけを記録する。それだけで、取りこぼしは減ります。
それでも残る面倒
- 返戻が紙で戻り、担当者の手元に留まる。院長には見えない
- 再請求の期限が、患者ごとにバラバラに走っている
- 担当者が休むと、その月の返戻が誰にも分からなくなる
- 去年の返戻が何件だったか、思い出せない
まとめ
- 支払基金の歯科の統計から資格返戻・事務返戻・審査返戻を足すと、およそ9割が資格返戻。診療内容の返戻は0.3%ほど(どちらも表の数字からの計算)
- 事務返戻は前年から26.6%減った一方、資格返戻は6.2%増えた。点検を厚くしても資格の問題は減らない
- 資格は診療の後から変わる。通院が長いほど、その間に資格が変わる機会は増える
- まずは返戻に「資・事・審」の1文字をつけて、自院の内訳を知るところから
- 返戻をスタッフの失敗として扱うと、返戻が見えなくなる
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返戻を1件ずつ登録して、戻ってきた日・理由の区分・再請求した日を残せます。患者さんを特定できる情報は持たない作りなので、預ける不安がありません。担当者の机の中ではなく、院長の画面にも同じものが見えます。理由の区分がたまるので、自院の返戻が「資格」なのか「事務」なのかを後から数えられます。なお、レセコンとは直結しておらず、レセプトのデータはCSVで取り込む形です。

