歯科衛生士がスケーリングや保健指導をした日の記録を、カルテのほかに残していますか。歯科医師が書くカルテとは別に、歯科衛生士の側にも記録の決まりがあります。
先に結論です。歯科衛生士は、業務を行ったら記録を作り、3年間保存するものとされています(歯科衛生士法施行規則第18条)。中国四国厚生局が公表した令和6年度の個別指導の指摘事項にも、この記録を作っていない例が載っています。この記事では、条文に書いてあること・書いていないこと、カルテとの関係、電子で残すときの条件を、順に確かめます。
カルテや帳簿を何年置くかの一覧は歯科医院のカルテ保存期間は5年 ── 帳簿は何年かにまとめています。あちらは診療録と帳簿、こちらは歯科衛生士の業務記録を扱います。
決まりは施行規則の第18条
歯科衛生士法施行規則第18条によると、歯科衛生士は、その業務を行った場合に、記録を作成します。そして、作った記録を3年間保存するものとされています。条の見出しは「記録の作成及び保存」です。
歯科衛生士法第2条は、歯科衛生士の業を3つの項に分けて定めています。第1項は、歯科医師(歯科医業をなすことのできる医師を含みます)の指導の下に行う予防処置です。中身は2つあり、歯の露出面と正常な歯茎の遊離縁の下の、付着物と沈着物を機械的操作で取り除くことと、歯と口の中に薬物を塗ることです。第2項は歯科診療の補助で、保健師助産師看護師法第31条第1項及び第32条の規定にかかわらず業とすることができる、としています。第3項は、歯科衛生士の名称を用いて行う歯科保健指導です。
ここからは筆者の読み方です。第18条の文は、「業務」の中身を特定していません。予防処置・診療の補助・保健指導のどれを行った日にも記録を作る、と考えておくのが安全です。また、この1文には、記録に書く項目も、3年をいつから数えるかも、置き場所も書かれていません。そこは医院の中で決めることになります。
もう1つ、主語は歯科衛生士です。医院の管理者ではありません。ただ、記録は医院の中で書かれ、医院の棚やシステムに残ります。スタッフが辞めても記録が院内に残るよう、置き場所は医院で決めておくと困りません。
カルテとは別の記録として見られている
中国四国厚生局は「令和6年度に実施した個別指導において保険医療機関(歯科)に改善を求めた主な指摘事項」を公表しています。その「診療録等」の項は、(1)診療録、(2)歯科衛生士の業務記録、(3)歯科技工指示書、の3つに分かれています。(2)では、歯科衛生士が行った業務の記録を作っていない例があったとして、改めるよう求めています。
同じ資料の歯科衛生実地指導料の項には、算定要件を満たしていない例の1つとして、歯科衛生士への指示の内容などの要点が診療録に書かれていない例が挙がっています。資料の冒頭には、令和6年度の診療報酬改定より前の明細書などで指摘した事項も含まれる、という断りがあります。
ここからは筆者の読み方です。歯科医師が指示を診療録に書くことと、歯科衛生士が自分の業務を記録することは、この資料の上でも別の見出しに置かれています。片方があればもう片方は要らない、という書き方にはなっていません。
指示そのものの決まりは法律の側にあります。歯科衛生士法第13条の2は、歯科診療の補助の場面についての条文です。診療機械を使うこと、医薬品を授与すること、又は医薬品について指示をすること、その他歯科医師が行うのでなければ衛生上の危害が生じるおそれのある行為を、歯科衛生士はしてはなりません。主治の歯科医師の指示があった場合は、この限りではありません。また、同じ条のただし書きによると、臨時応急の手当をすることは差し支えありません。
同じ法の第13条の3は、歯科保健指導の場面についての条文です。歯科保健指導をするに当たって、主治の歯科医師又は医師がいるときは、歯科衛生士はその指示を受けなければなりません。第13条の2から第13条の4までに違反した者は、第18条により、6月以下の拘禁刑若しくは30万円以下の罰金に処し、又はこれを併科するとされています。
同じ資料で(2)の次に並ぶのは、歯科技工指示書です。指示書に何を書くかは歯科技工指示書、10月から技工所番号の記載が必要にで扱いました。
電子で残すときの条件
記録を電子カルテや院内のファイルに残す場合の決まりは、平成17年厚生労働省令第44号にあります。民間事業者等が書面の保存などに情報通信の技術を使うことについて、厚生労働省が所管する法令のぶんを定めた省令です。その別表第一の四の表に、歯科衛生士法施行規則第18条による記録の保存が挙がっています。
同じ省令の第4条第1項によると、民間事業者等がこの四の表に挙げた電磁的記録による保存を行う場合は、次のいずれかの方法によらなければなりません。
- 作った電磁的記録を、ファイルにして保存する(使っている電子計算機に備えたファイルか、電磁的記録媒体で作るファイル)
- 紙に書いた事項をスキャナ(これに準ずる画像読取装置を含む)で読み取って電磁的記録にし、同じくファイルにして保存する
第4条第4項によると、四の表に係る電磁的記録の保存を行う場合は、次の措置を講じなければなりません。
- 必要に応じて出力し、機器の画面に直ちに明瞭かつ整然とした形で表示でき、及び書面も作れるようにしておくこと
- 保存期間中に、書き換え(改変)や消去があったかどうかと、その中身を確かめられる措置を講じ、かつ、記録を作った責任が誰にあるかを明らかにしていること
- 保存期間中、元に戻せる(復元できる)状態で保存できる措置を講じていること
ここからは筆者の読み方です。電子で残すなら、使っているシステムが次の3つに答えられるかを、業者の説明書や問い合わせで確かめておきます。画面に出して印刷できるか。書き換え・削除の跡と、誰が書いたかが残るか。3年のあいだ、壊れても戻せるか。紙のノートで残す場合も、置き場所と保存の年数は決めておきます。
今日からできること
ここからは筆者の提案です。道具を買わなくてもできることから並べます。
- 記録が院内のどこにあるかを確かめる。紙のノートか、電子カルテの欄か、別のファイルか。歯科衛生士ごとに違っていないかも見ます。
- 数日分を開いて、業務をした日の記録があるかを見る。予防処置だけでなく、保健指導をした日の分もあるかを確かめます。
- 何を書くかを院内で決める。条文に項目は無いので、医院で決めます。筆者なら、少なくとも「いつ・誰に・何をしたか・誰が書いたか」があとから分かる形にします。
- 3年をいつから数えるかを決めて、書き残す。条文に起点が書かれていないので、迷うときは保健所や地方厚生局に確かめてから決めます。
- 辞めたスタッフの記録の置き場所を決める。個人のロッカーや私物のノートに残さないようにします。
記録には患者さんの情報が入ります。歯科衛生士法第13条の6によると、歯科衛生士は、正当な理由がなく、業務上知り得た人の秘密を漏らしてはなりません。歯科衛生士でなくなった後も同様です。違反した者は第19条第1項により50万円以下の罰金で、同条第2項により告訴がなければ公訴を提起できません。
それでも残る面倒
- 決めたことの引き継ぎ。項目や数え始めの日は条文に無いので、院内で決めた内容が人の頭の中だけにあると、担当が替わったときに消えます。
- 人の入れ替わりの把握。どの歯科衛生士がいつから在籍しているかは、記録の確かめにも、2年ごとの届出にも要ります。届出のほうは歯科衛生士の業務従事者届、令和8年は届出の年に書きました。
- 電子にしたあとの確かめ。システムを替えるときに、前のシステムの記録を3年分 読める形で残せるかを、毎回見る必要があります。
まとめ
- 歯科衛生士は、業務を行ったら記録を作り、3年間保存するものとされている(歯科衛生士法施行規則第18条)
- 条文には、書く項目・3年の数え始め・置き場所は書かれていない。医院で決めて書き残す
- 中国四国厚生局の令和6年度の指摘事項では、診療録・歯科技工指示書と並ぶ別の見出しとして挙がっている
- 電子で残すなら、表示と印刷・改変や消去の確認と責任の所在・復元の3つの措置が要る(平成17年厚生労働省令第44号 第4条第4項)
参考にした条文と資料
事務長AIなら、ここが変わります
事務長AIの「従業員名簿」(開いた先の見出しは「人」)に、職種と免許番号を残しておけます。業務記録の置き場所や、3年の数え始めをどう決めたかは、「マニュアル」に院内の決まりとして書いておけます。業務記録そのものを書く画面は、事務長AIにはありません。記録はこれまでどおり、カルテのシステムや紙で残します。

